シンアスのお話

□恋愛未満
2ページ/4ページ





「それに良い子だ」
(は?)
何を言ってるんだ、この人は。

「はは、そんなにはしゃぐな、シン」
 オレ? ……犬??

「こら、だからくすぐったいって」
 ちょっと待て。

「シン、やめてくれ頼むから」
 これではまるで。

「ちょ、こらどこ舐めて……」
 オレが犬みた――。

「やめろシン、こら…んっ、ン…っ…」
 ――ちょっ……!?

「な、なにしてんだアンタはー!!」








 綺麗な犬だった。
 見た目がどうということではなく、在り方が。
 ――そう、たぶん存在が。
 野良であろうその犬は、広い公園内にある木々を縫うように、駈け回っていた。
 公園といっても、山の麓にあるだけに、森と見紛うばかりの雑木林が一面に続いている。
 学園の生徒には、帰り道の抜け道として、よく通り抜けられている場所だった。
 そしてアスランもまたいつものように、帰路へと抜けるために歩いていた。
 そこで、見かけたのだ。

「……」
 思わず立ち止まってしまう。
 向こうも見つめる視線に気づいたのか、アスランを振り返った。
 見つめ合う。
「……」
 犬は、明らかにこちらを警戒し、様子を窺っていた。
 両耳を伏せて、唸る一歩手前だった。「少しでも近寄ろうものなら、迎え撃つ」、そんな臨戦態勢にでも、入っているのだろう。
 
 ――そんなところも、どこか似ている。
 
 アスランは一歩、踏み出していた。
「……シン」
 いつだって求めて止まない、見つめるばかりのうしろ姿と、どこか重なるから。

 だから、つい。






次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ