Dream

□『魔法の薬は』
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海賊船の厨房では一人の女性が唸っていた。


「ねぇ、アズリア。俺が変わろうか?」


その様子を心配した赤髪の男─レックス─は遠慮がちに声を掛ける。


「い、いらん!私一人で十分だ!!」


向こうで待っていろ。と言いたいのか手で制止している。


「でも……」


やっぱりアズリアが心配なんだ。


レックスはそう言いたかったのだが、最初に踏み出した一歩によってそれは叶わなかった。


「うわぁっ!!」


何の因果か、踏み出した足の先には先ほどアズリアが使った果物の皮が置かれており、それによってレックスの体勢は前のめりに崩れた。




ガシャァァン





厨房の器具はもちろん、アズリアと彼女が頑張って作っていた料理をも巻き込んで盛大な音を立てた。


「いたた……アズリア、大丈夫?」


ちょうどレックスはアズリアを庇うカタチで倒れたため、彼女の顔との距離は目と鼻の先だ。


しかし、そういう状況にあるにも拘らずアズリアは顔を紅くして横を向いている。


(全く……アズリアは恥ずかしがり屋だなぁ)


そう思ったのも束の間。レックスは腹部に強烈な衝撃を受けて宙を舞った。


「うぅっ、何で……?」


未だ腹部に走る痛みを堪えてレックスはアズリアを見た。


「…………」


そこには顔を真っ赤にし、眉を限界にまでしかめたアズリアの姿があった。


「お前というヤツは……」


地獄の底から響くような声を出し、わなわなと拳を震わせていた。


だが、そんなアズリアの瞳が水気を帯びているのも確かだ。


「お前というヤツは……ッ!!」


そこから先の言葉が出せず、アズリアは厨房を飛び出していった。




一粒の雫を残して……




厨房に独り、残されたレックスはある一点を見据えていた。


それはアズリアが頑張って作っていたパフェ。


レックスと一緒に食べている姿を思い浮かべながら作っていたパフェ。


そして、先ほどアズリアが顔を紅くして見ていたパフェ。


それが、見るも無惨に潰れていたのだ。





 

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