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□受けが髪コキしてくれる話
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そして夜である。僕の部屋に来た睡蓮さんは、僕が寝る寸前だったのを確認すると許可もとらずに布団を捲って隣に入り込んできた。そして半ば膝に乗りかかるようにして僕に覆い被さり、僕の唇を自分の唇でふさいだ。
そう、許可を取られたわけではない。伺いを立てられてもいない。ただその眼に見つめられて、その眼を見つめ返したら、いつのまにか口付けられている。
無論こちらも主人の望みを拒む気などないのだが、拒む気があっても彼の眼には逆らえないのだろう。見つめるだけで人を魅了するような黒く底の見えない瞳。彼はただの人間のはずだが、魔性を宿しているのではないかと思わされる。
「桂蘭、髪、好きなんだよな?」
「え」
今朝の問答の続きだろうか。
彼が僕の足の間に顔を近づけながら言った。片方の手は僕の太ももに置かれ、もう片方の手は全く遠慮なく股間へと伸ばされて、キスや軽い触れ合いだけで既に膨らみかけているそこを撫でている。
贅沢な話だが、僕はこの眺め自体にはもうそれなりに慣れていた。
睡蓮さんは男のモノをくわえるのが好きなのだ、ということは僕は本人の口から聞いていた。そして口淫だけが好きなはずもなく、男と性交すること自体が趣味なのだということも。最初はそんな馬鹿なと思った。実際楽しそうに僕を押し倒して脱がせて目の前でくわえこまれては信じるほかなかったのだが。
今もとても楽しそうだし乗り気でしかないことは彼の顔を見れば疑いようもない。
下着まで脱がされて露わになった僕の性器を、睡蓮さんは少しのためらいもなく唇と舌で撫で始めた。先端を包み込むように吸い付いて、舌は膨らみに沿って這わされる。柔らかな感触に腰が引けそうになるが、彼は僕のわずかな反応など気にも留めない。ちゅ、と音を立てて離れると、今度は横からくわえるようにして唇で挟み込みながら裏筋を舐め上げる。指先は濡れた先端をくすぐるように撫でていた。時折、僕の表情を観察するように視線をこちらに向ける。僕は睡蓮さんから目が離せないので、彼が僕を嘲笑うように目を細めたのもしっかりと見てしまう。
なぜこのひとはこんなにもいやらしいんだろうか。こんなにも綺麗なひとなのに、口いっぱいに男性器を頬張る姿が美しい、なんて。
「気持ちいいか?」
「……はい」
僕の昂りから一度口を離して首を上げた睡蓮さんに訊ねられる。返事のついでに僕が彼の髪を撫でると、睡蓮さんは唇を舐めながら妖しく笑った。
その表情に思わず身構える。何か企んでいるような顔だった。
「な、何ですか?」
「今日はこれを使おうと思います」
僕をからかうような悪い笑みを浮かべたまま、睡蓮さんは自分の左肩にかかっていた、括られたままの髪を手にとって言う。
これ、とは。
睡蓮さんの左手は髪にかかっている。右手は何を持っているわけでもなく空いていた。
……彼の言う、これ、とは。
「……か、髪? ですか?」
「桂蘭くん正解っ」
楽しそうに僕を褒める、その表情はとても可愛らしい。だが発言の内容は可愛いなんてものじゃない。
「使うって何ですか?!」
「まあまあ、おまえは受け入れればいいだけだよ」
いまこの状況で、髪を使うとはどういうことか。想像は難くない。だがそんな行為をしようだなんて夢にも思ったことはない。ないのに、断じてなかったのに。
睡蓮さんは目に見えて狼狽している僕を見て楽しみながらも抵抗させる気なんてない。片手は僕の内股の際どいところに乗せたまま、その片手で僕のことを抑えたまま、ゆっくりと髪紐をほどきながら僕に向かって微笑んでいた。
これから起こることに期待してか恐れてか、いつも以上に心臓がばくばくと鳴り出したのを感じていた。
僕はやっぱり、睡蓮さんの言うとおり、髪フェチというやつだったのだろうか?
睡蓮さんの艶やかな黒髪が流れて落ちるのをただ眺める。綺麗だ。こんなにも綺麗なのに。
「大人しくしてろよ」
そう囁かれて体が固まってしまう。静かな命令は、僕の動きを止めるのには十分だった。