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◆no title
「嫌いよ」
ベッドにうつ伏せになり、枕に顔を埋めた君が言う。
「あんたなんか嫌い!」
くぐもった声はヒステリックに聞こえた。だから何だって言うんだ。君が僕を嫌い、だからどうなる?
僕は君の部屋の君の椅子に腰かけたまま、ただ君を見ていた。ベッドに服のまま飛び込んで、僕に顔を見せようとしない君の姿を。
「……どっか行きなさいよ」
しばらく待っていると、君はちらりと顔をあげてこちらを睨んできた。
「いやだよ」
僕は短く答えた。僕を睨み付けてくる君を見つめ返す。嫌いだとか、どっか行けだとか言うわりに、君は僕を視界に捉えたままでいる。
ほんとうに嫌いなら、もっと傷つけるような言葉を言えばいいのに。
「僕は君が好きだから、君を見ていたいし、君の側にいたいよ」
君もそうだろう。
嫌いだとか口だけで言ったって意味はない。君は僕が追いすがるのを待っている。わがままを言っても許されたいと、ほんとうに僕が君を好きなら許すだろうと、僕の君への気持ちを試しているんだろう。
面倒な女だ。だが長い付き合いで真意を理解している僕には簡単にすら思える。
「君が僕を嫌いでも、僕はずっと君のことが好きだよ」
「……勝手にしなさいよ、馬鹿」
ほら、許しを得た。
ベッドに近づく。君はまた枕に突っ伏した。君に覆い被さるようにベッドに乗る。優しく頭を撫で、顔を見せて、と囁くと、君は僕と目を合わせないまま顔を上げた。その表情は、隠そうとはしているが、もう満足げだ。あとはキスだけで、全てなかったことになる。
君は僕の執着をわかっているのかな。僕は、君がほんとうに僕のことを嫌いになっても、一生愛するつもりでいると、わかっているのかな。
柔らかい髪を撫でながらキスをする。すぐに離れると、君は僕の腕を掴んだ。決して口では言わないが、もっとしてほしいんだろう。可愛らしい。好きだよ、と囁きながら、またキスをする。
今は僕を求めている君のその瞳が、いつか僕を心から拒んだとしても。
僕の君への気持ちは変わることはない。
ほんとうは、僕には君の許しなんて必要ないんだよ。
2021/06/13(Sun) 13:45
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