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□にまん
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幸せは逃げる

茹(う)だる暑さもピークが過ぎた頃、とはいえ暑いことに変わりはないなと熱さを帯びる風に神崎は考える。
そういえば今朝のニュースでまた台風が発生したと言っていた。湿った空気に拍車がかかることだろう。
建物内で直射日光が当たらなくともじんわり汗が浮かび、無意識な手を首筋に這わせたところで頭上から声を掛けられた。

「おい、」

‐ああ、面倒なのが。
出来ることなら聞かなかったことにしたいが正面に突っ立ってたら反応しないとだ、よなぁ…めんどくさい。
ぼんやりとみあげてしまった自分にはぁと溜息をつき、目の前の男に対し神崎は口を開く。

「で?」
「『で?』って酷ぇな。もっと反応してもいーんじゃねぇの?愛が足りねぇなほんと」
「用事。ないならどっか行けよ。」

す、と目線を外すと、姫川はええっと大きな声をあげる。わざとらしい驚きに、されて苛立ちを感じない者はいないだろう。神崎は眉間の皺を深くする。

「まじ有り得ねぇし一ちゃん」
「…気持ち悪。い、こと言うな。」
「ホントそうだよねー」
「夏目っっ!」

あ、もっと、面倒に、なってきた…。
夏目の後方からの出現に神崎は、一層深く皴を刻んだ。
なんでこうも寄ってくるのか、寄ってくるだけならまだしもこのくそ暑いなか近くに寄るのか、つか後方からの出現は心臓に悪い、びっくりした、人を驚かすその神経が理解出来ない、いやしたくはないけど、つか本当に暑いんだけど俺、と背中に体重を感じながら考える。

「もぉ、姫ちゃんが大きい声出すから神崎くん黙っちゃったじゃん」
「ハ?!俺のせいじゃねーだろ!つかお前抱き着くなっ」
「いーんですぅ〜神崎くんと俺はらぶらぶなんですぅ〜」

ギュウ。「ぐぇ(首、絞まる)」

「ハァアア!何言ってんだテメェッ」

グイッ。「ぉぇ、(腕ひくな、首入る)」

「ほんと姫ちゃんうざいんだね」
「お前の方がだろ!」
「そんなんだからヌメモサなんだよ。」
「は?石矢魔奇跡のイケメンだろーが」
「自分で言わないでください〜あの変化時限越え過ぎだし。リーゼントもサラストも意味不明だよね。」
「サラストはテメーもだろ!?髪のかき上げ方にしつこさが滲み出てんじゃねーかっ」
「うわぁ着眼点がしつこいね。ううん、姫ちゃん自体がしつこいんだけど。」
「いやいやいや、お前のその言い方にかなりのしつこさを俺は感じるぞ」

…しつこいのはテメェらの方だろ。
神崎は深い溜息を吐いた。しかし溜息は吐いたがそれを神崎は口に出さなかった。決して自分が発言することにより、より二人の口論が白熱することを危惧した為、とかではない。単に口を開くのが面倒だった為だ。
神崎頭上での姫川・夏目による暑(苦し)いやり取りは続き、遠目に見守る(睨み付ける)他の生徒がそれに加わるのは時間の問題である。
城山が居ればきっと、いや確実にこの状況は打破出来ているだろう。そしてこんな暑い中汗にまみれるなんてこと、なってはいないに違いない。
ひっつかれている背面や頭部に浮かぶ汗とそのことを思うと、やはり神崎の溜息を止める手立ては無いようだった。


おわり。
******
無気力系神崎。を目指しました。

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