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□バブ
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可愛い子は悩ませろ!


かおるが教室のドアを開けるとどこか熱く、湿った空気が流れ出た。

「かおる、」

一歩、教室に入ると後ろに立っていた英虎に名を呼ばれる。

「なんだ?」

歯切れ悪く呼ばれたのが若干気になりながら振り返る。すると見遣った先の顔にはいつも以上に深く眉間に皺が寄った、しかし困ったような表情が浮かんでいる。
見飽きる程に見てきた男の顔に浮かぶそれが意味するところを解らない訳がない。
だがかおるはそれを無視することとする。

「変な顔だな」

「ハ?!」

くるりと教室内に向き直り定位置の、1番前の窓際に着く(此処が晴れたら最も日当たりが良い為である)。
呆気に取られる男を尻目にゆっくりと席に着き、持っていた文庫を開いた。その姿に英虎は正気を取り戻し、ガタガタと机の間を縫ってかおるの元へ急ぐ。

かおるの席の横に周り、机に手を叩きつけると、
バンッ
という音が二人しかいない教室内に鈍く響いた。

「かおる!だから…っ!」

英虎はどうしてこんなにも伝わらないのだろうと思った。

いつもなら甘えた声と表情で汲み取ってくれるのに。それに此処のとこご無沙汰で今日の教室には誰もいない、最高のタイミングじゃないか。なのにどうしてかおるは俺を見もせずに本を読むんだ、クソ、何で。

意図的に無視されているなど思いもしない英虎はどうにか言葉にして伝えぬばと考える。だがなかなか次の一言が出ない、そんな自分に腹が立つ。

とても、恥ずかしくて堪らない。こんなにも体と心はかおるを求めているのに言葉が出ない。もしこれで、言葉が出ないからといってかおるの読書を物理的に妨げればかおるの機嫌を損ね、セックスどころか口をきいてもらうのもままならないのはわかるのに。でも、それでもいつものように軽く口から言葉が出ない。

屈強な体を丸め、もどかしげに口を動かす姿をかおるは文庫を読むふりをしながら観察していた。
たまにしかしない意地悪だが困り果てた表情をみれる、それはそれでいいなとほくそ笑むのを文庫で隠し、まだ悩む英虎を見守るのだった。


おわり
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おちがみえなかったです

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