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□バブ
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ぬぷ、と口の中に入れこまれた舌によって起こされる音が俺をとても不快にさせる。それを聞きたくないし咥内に舌を突っ込んでくるのもたまらないのに、頭と腰を強く抱かれているせいで胸部まで上がった手を引き出せない。尚且つ手の平がこの糞リーゼントの方を向きっぱなしで、縋り付いているような錯覚を起こさせた。
−あ?だれにだって?
俺にだよ!!


Today's luckyitem


俺に噛み付いた拍子でこいつのトレードマーク@のサングラスは床に転がっていて、それを気にせず好き勝手に俺の咥内を舐め回すのが気に入らなくてたまらないから眼はぜってぇつむってやんねぇ、と決めて睨みつけるがコイツはニヤついた目元をさらに細くするだけ。
男にこんなことをされて喜ぶ奴がいるとでも思ってんのかこの馬鹿。つーかいたとしたら是非ともお目にかかりたいもんだ。あ、いややっぱ遠慮する、気持ち悪ぃ。

「、、ん、」

息を吸う際に、変な圧迫のせいで鼻から音が抜けて。その音がまるで俺が感じて出した音だと勘違いしたこいつは一層腰を抱く力を強め、舌を絡めてくる。
ぬちぬちと頭に響く音と動き回る舌に気分は下降の一途。
上顎を、押すように撫で付けられ今迄にない程の寒気と危機感が背を走った。

早く退け、死ぬ、まじリーゼントうざい、もじゃもじゃする、裸眼なのも気に食わない、にやけた眼しやがって、くそ、まじ死ね、死ね、ぜってぇコンクリに詰めて沈める!

そう思うのに、なにひとつ反撃もままならない自分に腹がたってたまらない。
息苦しさと悔しさのあまりに、なんて言い訳くさいが、視界が滲んでる自覚がたまらなくあって余計腹立たしい。
くそ野郎、と改めて見やったのと同時に眼の前をなにかが通り過ぎた。

『ガッッ』
「ゥグ!!」「!?」

衝撃音とほぼ同時に地に伏した姫川をみると、白目を向き、その口からはよだれが垂れている。

「呆けてっけどもう大事なとこ奪われたの?」
「!」

声に弾かれるようにみればそこには首をコキリ、と鳴らしながら退屈そうな空気を纏った相沢の姿が。
…、相沢が姫川を伸ばしたことはわかる。わかるがその状況が理解できねぇ想像できねぇ意味わかんねぇ。

「…なん、で、お前」
「よしじゃあ行きますかね、」
「っ!いてぇ、手ぇ離せや」
「手首だよ。」
「一緒だ馬鹿!」

俺に背中を向け、手を引っ張る腕についていく。
跨ぎ越した姫川をもう一度見るが、全く動く気配はない。

「…なぁ、あれ」
「あれ?ああ脳震盪程度だから問題ねぇよ、まぁ今晩には目ぇ覚ますでしょ」
「今晩…」

それはそれで問題があるんじゃないのかとも思うが、あいつの自業自得だし。天罰だこんちくしょうめ。




手を引かれるままについていく。
離させたくて何度か手を引いたり文句を言ったりしたが意味がなくて。他の奴に見られたわけでもないし、と自分を納得させた。


「ところで、なんで姫川に襲われたか意味わかる?」
「?」

何言ってんだこいつ。ところでって接頭語も意味もわっけわかんねぇ。いきなり話し始めて、ところでを使うとこじゃねぇし。
つか襲われたなんて言葉使うな、俺が弱いみてぇじゃねぇか。

「なんでって完璧イヤガラセだろうが」
「…あらー…ちょっと姫川可哀相かも、あれじゃあ仕方ないけども。」
「ハァ?何が仕方ねぇんだよ」
「いや別にー?」

煮え切らない返答がむかつくが、相沢がいきなり振り返ったので立ち止まる。
サングラスというより色付き丸眼鏡越しで目線はわからないが見られているのはわかるから、すこぶる居心地が悪い(しかも手はまだ掴まれたまま)。

「…なんだよ」
「はーい、もう教室まで一人で行けるでしょーナイトごっこはここまで!」
「ナイトごっこ?」

何急に明るい口調になってんだこいつ。しかもナイトってもまだ夜じゃねぇし。他に意味あったっけ?……

「…っ!!べ、別に助けても送ってくれも言ってねぇし!」

思い出せた単語の意味と俺のされたことを合わせると、その瞬間に全身をものすごい寒気が走る。つか(俺が言うのも何だが)こんな面でナイトなんてファンシーな言葉が出てくることがたまらなく悍ましい。

「はいはい、わかってますよお姫様。ただ助けた御礼は欲しいなぁなんて、」
「っ!!」

掴まれてる手が痛んで、にやけた面がぼやけたと思ったら唇にいやに柔らかい感触。
驚きで眼をかっ開くその向こうに何故だか顔面蒼白の城山と引き攣った顔した夏目が見えて。ああ、そうだったこの階教室あんじゃん、ココ隣の教室の前だし、なんて現実逃避を0コンマの何秒の間に考えて、軽くかわいらしい『ちゅっ』というリップ音と供に唇が離れた。

「じゃ、これからいろいろ気をつけてね。」

なんて言いながら横をすぎてく相沢になんの反応も返せず固まった。


誰だ今日のラッキーアイテムがサングラスなんて言ったヤツ!!
人生の汚点が2つも出来たじゃねぇかっ!
(―でも朝のフ〇アナは許す、朝の癒しだから!)

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