jam

□まなびやワンダーランド
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落ちて 落ちて 穴の中
辿り着く場所は どこ?









――キーンコーンカーンコーン…
調子っ外れな終業のチャイムが響く。それと同時に…否、それよりもかなり以前からダレ始めていた教室の空気は、教科担当である天然パーマが教卓から顔を上げることによって一層のこと破綻し始める。


「じゃあ来週は今までの範囲テストすっかんな。平均下回った奴は以後平穏な青春を送れると思うなよー」


今の今まで教科書ではなく漫画本に目を落としていた奴がよくもヌケヌケと。放たれた暴言に教室中からクレームやら凶器やらが飛び交い、ただでさえうるさいと評判のホームルームがカオスと化した。
担任でもある教師は上申される苦情の数々に眉をしかめて耳を塞いでいたが、背後の黒板にドスリと勢いよく刺さったコンパスを見て漸く顔を青くする。物凄く綺麗な投球フォームで鋭利な武器を放ったのは、我がクラスでも指折りのスナイパー…ではなく、笑顔の美しい女史である。
その微笑みに担任は何ぞ言おうと口を開きかけるが、更に後を追うようにして投げられた鉛筆やシャーペンの嵐に再び黒板にへばりつく。今度は誰だと首を回せば、時期外れのクールな眼帯のボーイッシュ転校生だ。
完全に先程のコンパス女史の援護かつ味方である彼女の暴挙は「すまない、手が滑った」との理不尽な一言で済ませられようとしたが、これにも担任はめげなかった。


「お前らいい加減にしろよ!即刻全員成績1に――」


涙交じりの声を荒げ職権乱用という暴挙に出る担任。しかしその台詞すらも空しく言葉尻が消えることとなり、それは何故かと言えばコンパスや筆記具類など相手にもならないような凶器がぶっ飛んで来たからで。


「先生、危ないですよ。危うく足元の羽虫を踏み潰してしまうところでした」


「殺生は、いけない」羽虫を守るべく一人の人間を犠牲にしようとした悪魔のようなクラスメイトがお決まりの台詞を発する。瞬間静まり返る教室に見計らったかのような帰りのホームルームの時刻を知らせるチャイムが再び鳴り響きくと、締めの代わりにツッコミ担当である眼鏡君の一言がぽつりと教室に落とされた。

今日も今日とて、騒がしい非日常が終わっていく。


「おう山崎、今日ゲーセン寄ってこーぜゲーセン」


放課後となり人もまばらな教室。掃除のために俺は窓際最前列の席から立ち上がった。と、それと同時に背後からかけられる声。
振り返るとどこか眠そうに目を擦る我が校きっての王子様が立っていた。王子様だなんて俺が言うのも気持ちが悪いんだろうが、まあ彼を形容するのに便利ではあるので悪しからず。どうやら授業中ずっと惰眠を貪っていたのであろう彼の頬には赤い痕がついてしまっている。愛用のアイマスクは首元にぶら下げたままで、こいつは本当に何しに学校に来てるんだか。


「あー、すいません。今日はちょっと用事があって」


最近入った格闘ゲームに夢中な彼には悪いが、眉をハの字に垂れ下げて断りを入れる。途端にムッとした表情になる彼だったが、今日はとっておきの切り札があるのだ。


「そんなことより、副部長に呼ばれてたんじゃないですか?」

「あー?いんだよあんなモンは。俺を呼び出して手篭めにしようってハラだから」

「………」


かったるそうに答える彼にそんなわけあるかと盛大にツッコみを入れる。…勿論心の中で。
相変わらず苦労しているのであろう我らが鬼の副部長に溜息が出た。まああちらにも理不尽なところはあるのだし、俺に言わせればどっちもどっちだと思うけれど。


「バカ言ってないでちゃんと行って下さいよ。じゃないと俺がまた八つ当たられるんだから」

「えっ?だってそれがオメーの存在理由だろィ?」

「何本気でびっくりしてんだアンタ」


イラッとした。綺麗な顔で本当に驚いたような顔をするから、ちょっと結構本気で腹が立った。
はあ。何度目か分からぬ溜息を吐いて肩を落とす。既に帰り支度万端な彼は、きっと副部長の元へ行くつもりもないのだろう。どころかこの様子では掃除当番であることすら忘れていそうだ。






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