jam

□少女金魚
1ページ/2ページ





常々思う。
日常って何て面倒なんだろう、と。

朝起きるのも面倒だし、
学校行くのも面倒だし、
ていうか何より勉強が面倒だし。

友達とのお喋りは楽しいけど、それだって何だかとても退屈。
誰が格好いいとか昨日のテレビがどうだったとか。


あー何か全部どうでもいい、というか眠い。



だからあたしがいるのは大抵屋上。
ここから皆が必死に勉強してるのを見るのが結構面白い。

…と、思えたのもほんの数日前まで。


わたしには、どうやら執着だとかそういった人間らしい感情が皆無らしい。
「冷静だね」とはよく言われるけれど、そんな綺麗な言葉は相応しくはない。

淡白、もしくは冷淡。

わたしを取り巻くのは世界から切り離されるためのフィルターで、物事を見聞きするのもすべてその薄い膜を介しているような気がするのだ。



「…はぁ」



今日も今日とて屋上に上る。

空が青い(らしい)
カフェオレがまずい(らしい)

わたしに伝達される感情、感覚それら全てはわたし以外の誰かから伝わるもの。
それが誰とは確証がないが、ていうかこの論説自体あやふやなものなんだよね。(さっき思いついた)


いつも心中にあるものと言えば、面倒臭いという気持ちと、恐ろしいまでの空白感。
空白、ってか空虚?
何をやってもむなしいみたいな、どうにも満たされない思いがあった。


満たされないとか言ってる時点であたしは十分人間らしいのかもしれない。
だけどこれも仮説にしか過ぎず、満たされないからどうだ、とかそう言う行動の根源になったりはしなかった。

満足感を得たいとも思わない。
ていうか考えるのもめんどい。




ここまで辿り着いて、次に思ったのが何のために生きるのかという話だ。

何とも哲学的な命題ではあるが、考えてみる価値はあると思った。
考えて答えが出れば、それは人生の目標になるだろうし、まず何よりこの空虚を埋めてくれる筈だった。


ここで注目して欲しいのが、あくまでもこれは過去のお話ということだ。
だった、とか言ってるから分かるとは思うけど。

つまりわたしは思考を放棄したのだ。
考えてるうちに、何を考えているのか分からなくなって…まぁ要するにアレだ、めんどくなったわけだ。


何のために生きるのか、なんて、誰にも分かるはずがないじゃん。
大体これまでのわたしの生活に関わっていた人なんて、数える程しかいない。

両親は幼い頃に事故で亡くした。
親戚も疎遠だし、友達とろくろく呼べるようなヤツもいない。



あれ、もしかしてこれって一種の鬱状態とかいうやつか。
いやでも鬱ってこんなにあれこれ考えるもんなのかな。
…どうなのかな…面倒だな。


いつか聞いた話だが鬱病とされる人間が死に至るケースはまずない。
何でかと言えば、彼らにはやる気がないからだ。
生きるのも面倒だけれど、死ぬまでの気力もない。

言ってしまえばわたしも似たような人種だったんだろーけども、幸か不幸か、この日だけは違ったんだ。



やる気も元気も勇気もない、もう人間失格と言ってもいいようなあたしにも、唯一仕事が与えられていた。
それは多分、成し遂げたところできっと誰も喜ばないだろうし、それ以前に誰も気付かないだろう。

新学期、面倒臭いとクラスの委員決めをサボってしまったが為に与えられてしまった仕事。
至極簡単な、だけどこれと言って花も人気もない。

いわゆる飼育係さんとゆーヤツになってしまったのです。


別に、誰がやれって言ったわけでもないし。
やったところで気付かれもしないだろうし。(あれこれ二回目?)


校舎裏、湿っぽい小さな庭(と呼べるのかどうか)に設けられた苔だらけの小さな池。
そんな立地条件最悪な場所を住処とする、見た目だけなら完全にそうとは思えない、金魚があたしのオトモダチだったのだ。


淋しいヤツだと言いたければ言うがいいさ。

金魚のエサとか、そんなもん見当たらないから取り敢えずパンくずとかあげるだけ。
しかも毎日パン食ってるわけでもないから、あげて週に二日とか三日とか。
それでもわたしが差し出す茶色の残飯に、必死に喰らいつく奴らを見ていたら何だか涙が出たのだ。


こんなちっさい池に離されて。
こんな湿っぽいところがお前の世界だと言われて。

逃げる術を持たない金魚は、一生をそこで過ごすしかないんだ。
せめて週に数回与えられる、パンくずをご馳走として心待ちにしながら。


哀しいな、お前らも。
いやでもわたしも悲しいから。

一緒に生きていこうじゃないのさ。



せめて、この三年間だけでもさ。





そうしてわたしは金魚たちの神様になった。
金魚たちはわたしのトモダチになった。

…いや友達?
トモダチ…うーん。


まぁ名称は何であれ、奴らは見てみれば中々に可愛いアンチクショーだった。
生徒からは「てゆーかあれフナじゃねーの?」とか言われながら(普通の金魚よりデカいんだよね)、それどころか忘れ去られながらも、奴らは懸命に生きていたのだよ。

きったない池を何度も何度もぐるぐる旋回して。
いつか大きな海で泳げる日を、夢見ていたのだと思うのだよ。(勿論わたしの妄想ですが何か)











次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ