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□少女金魚
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「…カミサマ、だァ?」

「うんそう、神様。ホラよく宗教であるじゃん。あんなのってマジでいるわけ?」



わくわくわく。それまで全く覇気というものを見せなかったわたしが、久しぶりに目を輝かせた。
しかしそれに反比例して男の死んだ目はより磨きをかけられ(ってのも変な表現だけど)、うんざりしたような瞳がこちらを見上げている。



「オメーはいると思うの」

「知らんよ。だから聞いてんじゃんか」

「じゃーどっちでもいんじゃね?こーゆうのって価値観の問題じゃん」

「ちょ、別れ話じゃないんだからそーゆう抽象的な理由で終わらせんな」



人間であるわたしがその真理を知るはずもない。
どうなんだとしつこいまでに聞いてみれば、「うぜェ」という辛辣な台詞の後にそいつは背を向けて。










「…いねェよ、神様なんて」











ぽつり。
何もないはずの虚空を見上げて、そう言ったのだ。



「…そうなの?」

「俺だって知るかんなこと」



俺らはな、誰に言われたわけでもなくずーっと昔からこの仕事やってんの。天の使いだなんて人間が勝手に付けた異称に過ぎねェよ。ただ醜く地上にしがみ付きたがる人間共のケツを叩いてるだけの、つまらんイキモノでしかねーんだから。

言って、男はふぁぁと盛大な欠伸を漏らした。
さっきまでとは全然違う真面目な声に驚いていたんだけど、存外そうでもなかったのか。



「…じゃあ坂田サンは、」

「あ?」



































坂田サンは、神様がいないと思ってる派なんだね。

突拍子もなくそう口にしたら、わたし異常にびっくりしたような瞳がこちらを見返していた。
少しだけ見開かれた目の中心に、ルビーのような瞳が鎮座している。



「じゃあわたしは信じる派になろうと思います」

「思いますってお前な。こーゆうのは派閥云々じゃねーだろ」

「まぁそうでしょうね」

「うわぁ何コイツ」



げんなりとした表情をする者だから、わたしはニタリと嫌らしい笑みを向けてやった。
どうでもいいけど坂田サンはムカツクことに結構背が高いから、自然と上目気味になってしまう。



「ってかお前、さっき知らねェっつったじゃん」

「皆が信じてる神様がいるかは知らんけど、少なくともわたしは」



神様だったもん。



「…は?」

「救いも話を聞くこともできなかったけどね。つーか種族違うし」



それでもきっと、あの黴臭く薄暗い裏庭においてはそういう存在であると自負している。



「…救いもしねーのに、神様なのかよ」

「あッ掬うことは出来たよ。網か何かで」

「何の話ですか」



漢字変換の問題だが、わたしにしてみたら重要なことだ。
一回だけ、死んでしまった同胞を土に埋めてあげたことだってある。



「わたしがいなくなったら、アイツら死ぬかもしんないもん」

「へえ」

「誰かの命を左右してるってさ、それってある意味」



神様より凄いよね。

そう言ってまたさっきみたく笑ったら、さっきよりずっと驚いた顔した天パがいた。
わたしがそう言ったことに驚いたのか、それとも内容に驚いていたのかは定かではないけれども。



「…屁理屈」

「またそーゆうこと言うしさァ」



話に水を差すのが好きな男だよ全く。

まぁいいやと再び手足を投げ出してごろ寝。
するとふっと顔に影が落ち、何かと思って瞼を上げる。



「んあ?」

「…んだよ寝てろよ」



どうやらその影と言うのは、坂田テメー話の腰折ってんなよ空気読めコノヤローだったらしく。
隅っこにいたはずなのに、今はどうしてかわたしの隣で胡坐をかいている。態度の急変が尋常じゃない。



「ちょ、そこ邪魔。せめて体育座りでコンパクトにまとまっとけ」

「うるせーな。俺体育座りはおじーちゃんからの遺言で止められてんだよ」



どんな遺言だ、っていうかアンタさっきまでしてましたよね体育座り。



「…わけわからん」



天に向かってぽそりと言ったのに、「オメーもな」って言葉が返って来た。しかも横から。



「…なあ」

「あ?」

「…お前さ、可愛くねーぞ上目遣い」

「死ねば?」

「あとさァ」















俺のこと、銀ちゃんって呼ばせてやってもいーけど










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