jam

□喜劇
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硬いベッドに擦れた頬がズキズキと痛んで目が覚めた。覚醒し切らないぼんやりとした視界で周囲を見回せば、そこは見慣れない和室。擦れた畳の上に私が寝そべるベッドが一つと、これ以上ないほどに生活感のないその一室はどう考えても私の自宅なんかではない。
そこで漸く意識がはっきりし始める。そうだ、私何だかよく分からないけど拉致っぽいことされたんだっけ。

慌ててガバリと飛び起きたら、古びたベッドがぎしぎしと鳴いた。見れば脚の部分が腐りかけていて今にも折れてしまいそうなほど。よく寝てる間に惨劇が起きなかったなと、あまりよくはない自分の寝相に冷や汗が流れる。
そこからそっと体を離し部屋を見回す。6畳あるかないかというそこはベッドのせいでやけに手狭に感じる。
確か夕べは疲労のためにお風呂も入らずベッドインしてしまった気がするのだが、顔を洗ったりするのはどこに行けばいいのだろう。
そっと外の廊下へ続くドアを開ければ、意外にも鍵などはかけられていなかった。
昨日出会った狂気染みた男――名前は“かむい”とか言うらしい(漢字がいまいち分からない)――は、どうやら私を監禁するつもりはないらしい。ペットがどうとかかなり危ない発言をしていたくらいだから、正直自由はないと思っていたのだけれど。

まだ朝早いためかしんと静まり返った廊下に立つ。どう考えても掃除が行き届いてないそこは光も届かず埃っぽい。どころかそこここにダンボールが積まれていたり雑誌類が廃品回収に出します的なまとめられ方で無造作に放られているのがある辺り、どうやらここら辺一体は居住スペースではないのではなかろうか。
辛うじて私の部屋にベッドはあったが、これはどちらかというと倉庫とか物置とか、そういうための場所と考えた方がよさそうだ。

あくまで「お客」ではない自分を改めて痛感し、とほほと小さく溜息が漏れた。まあこちらとて喜んでここに留まったわけではないのだし、部屋をもらえただけでも喜んでおくべきなのか。
取り合えず洗面所やお風呂と言った水場が分からないことには生活も出来ない。その辺ちゃんと説明しとけよとあのピンク頭にかなりの苛立ちを覚える。

ぎしぎしうるさい廊下を踏み締め歩き出した私は、こうして不本意な軟禁生活の一日目を迎えたのだった。






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