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□喜劇
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ここに来ての私の生活は、自室という名の物置と“かむい”の部屋を行き来するという何とも単調なものであった。
通り過ぎる廊下だとか、たまに内緒で足を運ぶ甲板だとか。そう言う場所にこそついては来なかったが、“かむい”はどうしてか常に私を傍に置きたがった。…というより、鎖で繋いで置きたがったという方が正しいかもしれない。
海を走るだけではない、寧ろ空を飛ぶために作られたこの戦艦は最近あまり地に足をつけていることがない。ある日ゴウゴウという物凄い風の音で目を覚まし、慌てて外を覗いたら海が下一面に広がっていた…あれはかなりびっくりした。
私が拉致されて、既に一週間。もう仕事は諦めた。というか諦めざるを得なかった。船内に私が使えるような電話はなく、勿論携帯は捨てられてしまったために外部との連絡手段はない。“かむい”曰く私は未だ間者扱いされているためそういうツールの使用は禁止されているんだとか。
全く、疑り深いのも大概にして欲しいものだ。
朝起きて、顔を洗って、“かむい”の部屋に向かう。そこで与えられるご飯を食べて、他愛無いおしゃべりをして、反抗して、殴られて、気絶するように眠る。
本当に飼い殺されているような気もしたが、始め予想したものよりはずっと快適な暮らしであった。偶に私を不審がって、声をかけて来る怖い人たちもいたのだけれど。
「ようようお嬢ちゃん、アンタ団長に飼われてるからっていい気になってんじゃねーぜゴラ」
「…だんちょう?」
正直本気で怖いからやめて欲しいと思うんだけど、間者扱いされているのだから仕方ないとも思う。(諦めているとも言う)
私よりふた回り以上大きな体躯を持つその天人は、ギラつく視線を投げかけては畳み掛けるようにこう言った。
「団長っつったら神威さんしかいねェだろ!」
「(ひええっ!)は、はいスイマセンっ!」
「大体何で人間なんぞが乗船してやがんだ。かの春雨第七師団の船だっつーのに、こんなネズミがちょろちょろと…目障りなんだよ」
言いながら次第に声を低くするその人は、ガチャリと腰で鳴る物騒なそれに手を掛ける。
最近になって漸く「春雨」さんとやらが穏やかな稼業を営んでいる方ではないと知った。(てゆうか人なのかも怪しい)目障りと言われようが、誤解の上に死ななくてはいけないなんてどんな笑い話だ。
「い、いや私は決してネズミなんかじゃないんですよ!どう考えても千葉の某王国で舞い踊ってそうにないでしょ!」
「誰がネズミランドの話をしたァァァ!」
「ぎゃァァ冗談ですってば!」
しかも皆さん導火線がかなり短い方ばかり。私の何が気に入らないのか、目が合うなり抜刀と言うのも珍しくはない。
まさかこんな年若くして一週間の間に何十回にも上り死の危険と向き合うとは思っても見なかった。振り被られる度に足が竦む銀色の光。鈍いそれが頭上のくすんだ蛍光灯に反射してきらりと光った。
ああもう、本当にいい加減にして欲しい。
「オイオイオメーら、馬鹿な真似してんと団長が黙ってねェぞ」
「!」
と、そこにタイミングよく響く低い声。もうだめだとばかりに頭上にクロスした腕を恐る恐る解けば、そこにはかったるそうに眉を寄せる人物が立っていて。
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