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□創世記;零
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俺の前を歩くのは近藤さん、その背を追いかけるように総悟が走りより、俺は二人の後ろをぼんやりと空やら景色やらを見上げながら歩いていた。ふと、くすりと小さな笑い声が耳に届く。緩慢な動作で首を回せば口元に手を宛てながら目を細めるアイツが数歩後ろで笑っていて。
初夏の木漏れ日がその甘やかな色の髪を溶かすように揺れている。空は薄青く澄んでいて、遠くで蝉の鳴き声が幾重にも折り重なってこだました。

投下された季節が地上に落ちて破裂して、爆心地からじんわりと夏の色が滲み出すような6月の終わり。どこにでもあるような日常を生きる俺たちは、足下から広がりだした熱い季節のはじまりに泣き出しそうな思いを抱えて一本の道を歩いていた。






***





出会いなんてものはとっくに忘れた。それくらい一緒にいるのが自然体といえるような間柄だった。
居住する地区が偶然同じだったというだけの理由でしょっちゅう連んでいた近藤さんと俺と総悟は、腐れ縁というのがちょうどいいくらいの関係を築き上げていた。(親友とかは背中がかゆくなってしょうがないので却下)

特に何をするわけでもない。大抵総悟が何かしらあくどい悪戯をしかけて来るというだけで、その標的が専ら俺というだけで、それを見て毎回近藤さんがゲラゲラと笑ってみせるだけで。
それだけの空間がいやに心地良いだなんて、きっと一生口には出さないだろう。けれどそうして馬鹿馬鹿しい話題で笑ったり怒ったりするというあの場所が、俺にとっては生きる場所そのものだった。

さて、近藤さんも俺も一人っ子だったが総悟には姉がいた。それが、アイツである。



「沖田ミツバです」



中学時代、剣道部の大会に顔を出したのが初見だったか。差し入れの入ったビニール袋を片手に、強い日差しの下の汗を滲ませた笑顔が印象的。そんな女だった。(因みに差し入れは何故か激辛せんべいだった)(そういう意味でも印象的だった)
決して強さとかそういうイメージはない。なのにアイツを思い出す時いつも一緒に浮かぶのは薄く晴れ渡る夏の青空だった。強い日差しを避けるように日陰でにこにこ笑っている、沖田ミツバとはそういう人間だったのだ。

まあ出会いが出会いだったから、正直当初はそんなに気にもかけていなかった。ただそれ以来総悟が嫌に突っかかってくるようになったというか、やけに俺に対する警戒レベルが上がったというか。
嫌がらせの度数は日に日に上がり、ある時なんか危うく命の危機に晒されかけた。いい加減こちらも堪忍袋の緒が切れて、総悟に掴みかかってしまたくらいだ。



「…てめェ、何考えてやがる」



胸倉を掴み上げ低い声で言ったというのに対する総悟は涼しい顔をしていた。それにまた腹が立って声を荒げれば、相手はじとりとこちらに怪訝な視線を向け。



「…エロガッパめ」



と、これまたわけの分からないことをのたまってくれたわけで。






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