ロンドンの恋人たち

【X】
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Oh my god!








どうして、わざわざ買ってしまったりなんかしたのだろう。

頑張って無理やり作った笑顔で、ジェニファーさんたちに「ただいま」を、言い
自分の部屋に入り、ドアに寄りかかったままその場に座りこみ
本屋のロゴが入ったペーパーバックを、鞄から引っぱり出す。








「・・・・・・。」








モール内の本屋でお目当てだった文庫本を押しやり、
ゴシップ雑誌のページを、おそるおそる開く。

どう見ても、何度見ても、
これは、トムと私の写真だった・・・。

この写真を撮ったパパラッチは、私の顔を見たのだろうか。
もし、見られてしまったとしたら・・・私の顔を覚えられてしまったら・・・
いや、そんなことより・・・
トムに迷惑をかけてしまった・・・。
彼もきっと、このゴシップのことを知っているかもしれない。

あのとき、ふたりで行った店は人目につく場所じゃないのに_______







______どうしよう・・・







抱えた膝の上に額をあて、私は目を閉じた。

パパラッチは、どこで見てるかわからない。
油断が許されない。

本当に、今さらだと思うことだけれど・・・
トムと私は、”普通のカップル”じゃないのだ。きっと。

普通のカップルが、普通にデートするように
私たちがどこかでデートしただけで、それがゴシップネタとなってしまう。










「・・・・・・。」







のろのろと立ち上がり、雑誌は家の人に見つからないように
机の引き出しの奥の奥へとしまい、文庫本をベッドの上へと投げると
私は携帯を開いて、トムにメールを送った。






_______________________________

忙しいときにごめんね。

この間話した、日本へ行く件・・・
やっぱり、一緒に行くのはまずいかもしれないと思うの。
チケットのことは気にしないで:-)
ひとりで行くから。

忙しいとは思うけど、体調管理には気をつけてネ。

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数秒間ためらった挙句、送信ボタンを押した。
そして、送信が完了して、数秒間後悔。
そして、さらに数秒後に「仕方ないでしょ」と、なんとか自分に言い聞かせる。

ベッドの上で仰向けになって、天井を見つめながら、
考えたくもないことを考えてしまった。

きっと・・・この恋は、
私がロンドンでの留学を終えると共に、トムと私の終わりを迎えてしまうことがわかった。

夕食までの時間、買ってきた文庫本を開いていた。
日本へ持って行く荷物は、既にスーツケースに詰めこんである。

その後、トムからの連絡は一切なかった。
日本へ出発する日まで、ずっと・・・・。
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