ロンドンの恋人たち
□【Z】
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________僕と結婚して欲しい
Again to London
*
本当は僕もエリカと一緒にロンドンへ戻りたかった。
だけど、撮影やらの都合でそうもいかず
僕の方がひと足先にロンドンへと帰国。
帰国早々、ひと息つく間もなく僕を待っていたのは
撮影・・・と、今日は打ち合わせだ。
時差ボケだろうか
こうして車にぼうっと乗っているだけで、あくびが止まらない。
「渋滞しちまってるな・・・。」
マネージャーのジョンは苛立たしげにハンドルを指先でタタン、と弾く。
大通りだと言うのに、車が何台も詰まっていてなかなか進まない。
時折数メートルゆっくりと動く程度だ。
真っ赤なバスには、ハリーポッターの映画の広告が貼られていて
杖を握るダンと目が合う。
「ガム、食べるか?」
ドアポケットから、ジョンがミント味のガムを取り出した。
「ああ、もらうよ。サンキュー。」
ふたりしてガムを噛んでいると、
自然と締め切った車内にはほのかなミントの匂いが広がる。
僕はそのやや甘めのミント味を噛みながら、助手席の窓へ視線を流した。
その視線の先はブライダルサロン。ショーウィンドウには
華やかなウエディングドレスとタキシードが飾られている。
「・・・・・。」
それを見て、エリカのことを思わずにはいられなかった。
僕があのタキシードを着ていて、その隣には
あのマネキンが着てるドレスを着たエリカが立っていて・・・
そう、僕らの結婚式を。
エリカはきっと、誰よりも美しく愛らしい花嫁になるだろう。
僕がエリカにプロポーズしたことを周囲が知ったら、
きっとみんな驚くかもしれない。
それでも、みんな祝福してくれるはずだ。
僕の家族も、友人も、ミセスジェニファーたちも、日本にいるエリカの家族も_________
______結婚するんだ、僕たちは・・・
プロポーズのあの瞬間を思い出すだけで、震えてしまうほどの嬉しさがこみ上げ
思わず、だらしなく顔がにやけてしまう・・・。
何せ、あそこまで緊張したのは生まれて初めてだったのだから。
***
「うん・・・!うん・・・・・っ!」
涙を流しながら、エリカは力強く何度も何度もうなずいていた。
人生最大の瞬間、プロポーズ。
映画のように、ドラマのように、カッコイイセリフなんか
ペラペラ出て来ない。
僕はただひたすら照れることしかできなくて_____・・・。
「じゃあ・・・私たち、ずっと・・・これからもずっと一緒なんだね。」
「・・・ああ。」
「私が・・・留学を終えて日本に帰っても、結婚したら・・・
もう離れないでずっと一緒にいれるんだね。」
「ああ。もちろんだ・・・。」
エリカは鼻をすすり鳴らして笑った。
「やだ・・・私、こんなときにきっと・・・
すっごくぶさいくな顔になってる・・・。」
「可愛いよ。すごく・・・
もう、誰にも渡したくない・・・!
絶対に離さないから・・・」
東京タワーから見渡す夜景の中、あの瞬間のキス。
エリカの涙の味がしたキス。
ふたりのこれからの未来を思い浮かべながら・・・