ロンドンの恋人たち

【\】
1ページ/16ページ


不器用な男たち



突然、プチっと音をたててペンダントが外れた。
両腕に抱えていた本を机に置き、
床の上で離れて転がっているペンダントのチェーンとペンダントトップに手を伸ばす。
椅子を引いて座り、目の前にある本を隅へと押しやり、
チェーンにペンダントトップを通す。






_____チェーンが壊れちゃったかなあ・・・






目を細めてじっと見ても、チェーンが切れている様子はない。
でも、三年間、シャワーを浴びるときと寝るとき以外は肌身離さずつけていたのだ。
劣化しかけているのかもしれない。
それでも私はペンダントを首につけ直した。
三年前、イギリスに来たばかりの頃
トムが私にプレゼントしてくれた大事なペンダント____________・・・






「・・・・・・。」






そっと指先でクロスモチーフのペンダントトップに触れる。
突然ペンダントが切れてしまうなんて、何だか嫌な予感がする・・・。






______何かよくないことの前ぶれだったりして・・・






嫌でもそう考えてしまう自分の思考を振りはらうように
私は目の前に積み上げた本に手を伸ばす。
もう充分その”よくないこと”が起きているはずなのだ。
これ以上は考えたくない。
今は自分のやるべきことをやらなければ。

放課後はこうして図書館にこもることが日課になってしまっている。
授業が終わってすぐに帰ろうとしても、
周りの痛い視線にただひたすら耐えなくてはいけないし、
おまけにやっと学校を出れたと思ってもパパラッチもいたりする。
朝の登校と、昼休みは仕方ないとしても放課後くらいは穏やかに過ごしたかった。
ここで勉強して帰る頃には、学校の生徒はほぼ全員いなくなっているし
家に帰って自分の部屋にこもって勉強勉強と机にかじりつくことなく
ジェニファーさんのお手伝いだってできる。
一石二鳥だ。






「・・・・・・・・・・。」






そう、一石二鳥・・・自分に言い聞かせてみる。
強くなりたくてどんなに強がってみても、我慢してみても、
取り繕えるのは表だけだった。






<アンタなんか、最初から親友とも友だちとも思ってないわ!>






こうしてひとりでいると、
____と言っても、最近はもっぱらひとりのときが多いわけだけど_____
思い出してしまうユンの言葉。
ユンたちが私をもう友だちや仲間として思っていないことはわかっていた。
わかっていただけに、面と向かってそう宣言されてしまうと
相当堪えてしまっている自分がいる。

ハァー・・・と長いため息と共に
開いたノートの上に突っ伏す。






______ひとりって、やっぱりさびしいや・・・






だからって、ダンにあんな醜態をさらしてしまうなんて・・・
でも、あのときダンがいなかったら
私はどうなっていただろう・・・。
道のど真ん中でわんわん泣いて、ダンに迷惑をかけてしまったけれど
あのときはダンがいてくれて本当によかった。
今は心からそう感じる____________________・・・・・













わりと大きめなたんこぶひとつ。腕にちょっとした打撲とちょっとした出血。
背中もちょっとした打撲。
この程度の怪我で済んだと言うことは、ある意味悪運とやらが強いのだろうか。
あのとき_______
エマを両腕でしっかりと抱き止めて、
照明器具の落下から逃れる場所へと走ろうと試みたけれど
僕はスーパーマンでもスパイダーマンでもないわけで、実際は
エマを抱き止めながら右だか左だかに転倒した。
背中を固い地面に強打した衝撃と、ガシャンと耳を劈く落下音の後、
スタッフたちが救急車!救急車だ!と、口ぐちに叫んでいたことだけは覚えている。
実際、救急車を呼ぶほどでもなかったけれど。






「では、必ず明日検査にお越しくださいね。
軽傷で済んだとしても、本当は脳にも異常がないか検査しないといけないですからね。
少しでも異常を感じたら必ず連絡して下さいよ!」






と、中年の女性看護師にこうまで口酸っぱく言われたけれど
今日の撮影を休むわけには行かない。
すぐに撮影現場に戻らないといけないのだ。
なかなか了承してくれない医者と看護師をジョンとどうにかこうにか説得して
しぶしぶ了承してもらえた。
行きと同じように帰りもジョンが僕の車を運転して戻ると
エマがひとり、首を長くしながら外で待っていた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ