青学

マリポサ(不二周助)
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マリポサ






コートなしのマフラーだけで登下校できるようになったのは
春の訪れが近づいたから。
ときは3月。
それは・・・終わりと始まりの季節だな、と
思いながら不二周助は登校する。






「ん・・・・?」






下駄箱の扉を開けて、上履きに履き替えようとすると
封筒らしきものがひらひらと舞い落ちた。
履きふるしかけた上履きに足を突っこみながら、それを拾いあげた。
不二周助君へ
・・・と、書かれている。丸みをおびた文字は女子が書いたものと言うことが
一目瞭然。つまり・・・これは「ラブレター」と、呼ばれるもの。







_______”また”か・・・。






青学に入学してから、卒業目前の今まで・・・これで何度目だろうと
思い起こせば、自然とため息がもれる。






________差出人は誰だろう・・・?





こんなことは、もう慣れっこ。
だけど・・・心臓がうるさく鳴り、ドキドキした。
もしも・・・
もしかしたら・・・”あのコ”からなんじゃないかと。
封筒をひっくり返して、差出人の名前を読んで・・・今度は落胆のため息。

3年2組藤田智子

他クラス。しかも・・・よく知らない相手からの手紙だった。






________”あのコ”なわけないのに・・・これで何度目の期待だっけな・・・。







手紙をもらうたび、何度も何度も
ほんの一瞬の期待を抱いた。
「ずっと前から好きでした。付き合って下さい。」と、手紙をくれる相手が
“あのコ”だったらいいのに・・・と。







「お☆は☆よ!」

「・・・・・!」






ぽんぽんと肩を叩かれ、慌てて我に返って振り向くと
頬を指先で突かれた。






「アハッ。今どき”これ”に引っかかるのは周助君だけだよぉー?」






朝一番からささやかなイタズラをしかけてきたのは
不二のクラスメイトである井上茉莉花。
彼女とは1年の頃から3年間、同じクラス。
11クラスもあると言うのに・・・。
周りはそれを「腐れ縁」と呼ぶらしい。





「びっくりした・・・茉莉花ちゃんか・・・。
おはよ。」

「何何?”また”ラブレター?」





不二は、苦笑いして「ラブレター」をポケットに押しこんだ。





「・・・みたいだね。」





ふたりは、教室にむかって並んで歩き出す。







「周助君ってばさ、ほんっとモテモテなんだねぇー・・・。
入学してからこれで何度目?数えられないくらいじゃん?」

「そう言う茉莉花ちゃんもじゃない?
この前なんか、4組のえーと・・・バレー部の部長に
告白されたじゃないか。」

「鈴木君のこと?」




黒髪のツインテールを揺らしながら、茉莉花は不二を見上げた。





「・・・そう、鈴木君って言う人。」

「・・・周助君ほどじゃないけどね。ねぇ?」





茉莉花は、不二を見上げたまま
ピンク色チェックのマフラーを巻きなおした。
かすかに甘い香りがした。





「うん?」

「どぉして、今まで告白されてきて・・・誰にもオッケーしないの?」

「・・・・・。」





_________・・・君がいいから。君しかいないからだよ。





そう。茉莉花こそ、ラブレターをもらうたび
君だったら・・・と、期待した”あのコ”。
「周助君」と、呼ばれるほど仲よしなのに
3年間の”腐れ縁”なのに”友達関係”。
そこから一歩が踏み出せないまま、卒業式が近づいている・・・。






「ねぇーねぇー?なーんで?」と、無邪気で残酷な質問に
不二は、「さぁね」と
作り笑いすることしかできなかった。
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