青学
□マリポサ(不二周助)
1ページ/11ページ
マリポサ
コートなしのマフラーだけで登下校できるようになったのは
春の訪れが近づいたから。
ときは3月。
それは・・・終わりと始まりの季節だな、と
思いながら不二周助は登校する。
「ん・・・・?」
下駄箱の扉を開けて、上履きに履き替えようとすると
封筒らしきものがひらひらと舞い落ちた。
履きふるしかけた上履きに足を突っこみながら、それを拾いあげた。
不二周助君へ
・・・と、書かれている。丸みをおびた文字は女子が書いたものと言うことが
一目瞭然。つまり・・・これは「ラブレター」と、呼ばれるもの。
_______”また”か・・・。
青学に入学してから、卒業目前の今まで・・・これで何度目だろうと
思い起こせば、自然とため息がもれる。
________差出人は誰だろう・・・?
こんなことは、もう慣れっこ。
だけど・・・心臓がうるさく鳴り、ドキドキした。
もしも・・・
もしかしたら・・・”あのコ”からなんじゃないかと。
封筒をひっくり返して、差出人の名前を読んで・・・今度は落胆のため息。
3年2組藤田智子
他クラス。しかも・・・よく知らない相手からの手紙だった。
________”あのコ”なわけないのに・・・これで何度目の期待だっけな・・・。
手紙をもらうたび、何度も何度も
ほんの一瞬の期待を抱いた。
「ずっと前から好きでした。付き合って下さい。」と、手紙をくれる相手が
“あのコ”だったらいいのに・・・と。
「お☆は☆よ!」
「・・・・・!」
ぽんぽんと肩を叩かれ、慌てて我に返って振り向くと
頬を指先で突かれた。
「アハッ。今どき”これ”に引っかかるのは周助君だけだよぉー?」
朝一番からささやかなイタズラをしかけてきたのは
不二のクラスメイトである井上茉莉花。
彼女とは1年の頃から3年間、同じクラス。
11クラスもあると言うのに・・・。
周りはそれを「腐れ縁」と呼ぶらしい。
「びっくりした・・・茉莉花ちゃんか・・・。
おはよ。」
「何何?”また”ラブレター?」
不二は、苦笑いして「ラブレター」をポケットに押しこんだ。
「・・・みたいだね。」
ふたりは、教室にむかって並んで歩き出す。
「周助君ってばさ、ほんっとモテモテなんだねぇー・・・。
入学してからこれで何度目?数えられないくらいじゃん?」
「そう言う茉莉花ちゃんもじゃない?
この前なんか、4組のえーと・・・バレー部の部長に
告白されたじゃないか。」
「鈴木君のこと?」
黒髪のツインテールを揺らしながら、茉莉花は不二を見上げた。
「・・・そう、鈴木君って言う人。」
「・・・周助君ほどじゃないけどね。ねぇ?」
茉莉花は、不二を見上げたまま
ピンク色チェックのマフラーを巻きなおした。
かすかに甘い香りがした。
「うん?」
「どぉして、今まで告白されてきて・・・誰にもオッケーしないの?」
「・・・・・。」
_________・・・君がいいから。君しかいないからだよ。
そう。茉莉花こそ、ラブレターをもらうたび
君だったら・・・と、期待した”あのコ”。
「周助君」と、呼ばれるほど仲よしなのに
3年間の”腐れ縁”なのに”友達関係”。
そこから一歩が踏み出せないまま、卒業式が近づいている・・・。
「ねぇーねぇー?なーんで?」と、無邪気で残酷な質問に
不二は、「さぁね」と
作り笑いすることしかできなかった。