【ハリポタキャラ色々/短編集】

恋は忍び足で
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恋は忍び足で











事のはじまりは、コイツたちのせいなのだ。







「生意気だな・・・コイツ。」





図体ばかりでかくて、その分、頭の中に栄養がめぐってないのであろう
ドラコ,マルフォイの子分たちを
あたしは睨み上げた。








「そう思うなら、あたしに構わないで。
いちいち突っかかって来て・・・生意気なのはどっちよ!え!?」

「・・・変な言いがかりをつけるのは、やめてくれないか?
元はと言えば、貴様が廊下のど真ん中を歩いてるのが行けないんじゃないか。
この僕がどけと言うのを無視して・・・」










大きなふたつの体をかき分けるようにして、マルフォイがあたしの正面に立った。
子分ふたりに挟まれていると、マルフォイがどんなに威張った態度でいようとも
彼がうんと小さくひ弱そうに見えた。
だから、あたしは思わず笑っちゃったのだ。
当然、彼は怒る。








「・・・何がおかしい!?」

「別に・・・あたしが廊下の真ん中歩こうが、右歩こうが、左歩こうが、
勝手でしょ!?人もほとんど通らないような、
こんなに広い所よ?それを・・・何で
アンタたちが通る程度でいちいち道を空けないといけないの?
充分通れるじゃない!それとも何・・・?
アンタたちは、自分たちが通る場所に人がいたら「頭が高ーい!」とか言って、
王様気取りにでもなって、隅にどかせてひれ伏せとでも言いたいの?」










マルフォイの顔が、怒りでトマトのように赤くなったのを見た子分たちは
ギロリと視線をあたしに戻す。











「ドラコに向かって、何てこと言うんだ・・・」

「痛・・・っ!」










子分のひとりの張り手で、あたしは地面に尻もちをつく。
手にしていた教科書はバラバラと散らばる。
ペン、羊皮紙、教科書、と・・・それらを素早く拾おうとした瞬間
ひざにピキピキとした痛みを感じた。
擦りむいてしまったらしく、血がじわじわ滲んでいる。
舌打ちまじりのため息と共に
散らばった羊皮紙を整え、ペンをつかむ。
教科書は数メートル先まで飛んでしまっている。
立ち上がって、教科書まで手を伸ばそうとした瞬間
マルフォイの足元が視界に入る。







「・・・・・・!?」









悔しいことにあたしの手よりも、マルフォイの足の方が早かった。
マルフォイの足がぐりぐりとあたしの教科書を踏みつける。
薄青い瞳であたしを見下ろして・・・・・









「穢れた血め・・・・・。」









教科書なんか、どうでもよくなった。
気が済まなかった。
一発くらいお見舞いしてやらないと・・・・・。
マルフォイの顔にビンタを直撃させると、その衝撃で
マルフォイの体は海藻のように一瞬だけゆらゆらとした。
今だ!と、思った。
足元から教科書を引き抜いて、あたしは走った。










「待ちやがれ!」と、バタバタ三人分の足音が聞こえて来る。
足の速さには自信があったのに、このときは膝の痛みで早く走れなかった。












「やめてよ!来ないで!」










多分、マルフォイの子分のどっちかの手だったと思う。
その手が、あたしの髪をつかんで引っぱった。
お気に入りのリボンが、ぶちぶちと音をたてている。
この子分たちにも、一発ずつ・・・と
手を振り上げようとした瞬間、視界が黒くなった。











「情けないな・・・女ひとりに男三人がかりなんて。
今すぐ、その汚い手を離せ。」








________シェーマス・・・!









三人はぽかんと、なんともマヌケな顔。











「離せって言ってるだろっ!」









シェーマスの拳が、子分ひとりに直撃。
クラッブだかゴイルだったか・・・どっちがどっちかわからないけれど。
“その汚い手”が、パンチされてやっと離れた瞬間
あたしの髪はいつの間にか、解けていることに気づいた。
おまけにボサボサ・・・最悪だ。

シェーマスはあたしの手を引くと、自分の背中に押しつけるようにした。
あたしのおでこは、コツンとローブ越しにシェーマスの大きな背中にあたる。










「さて・・・次はどっちにしてやろうか?
マルフォイか・・・?」

「お・・・お・・・おおお覚えてろ!
こんなことして、タダで済まされると思うな!」

「そのセリフ、そっくりそのまま返すよ。」










マルフォイは真っ先にバタバタと逃げ出した。
その後を子分ふたりが追いかける。
途中、子分ひとりがよろめいて転んだのを目にして
シェーマスは笑い出した。「情けないヤツ」と。
シェーマスが笑うと、大きな背中が揺れた。









「もう行ったよ。・・・大丈夫・・・じゃなさそうだな。
膝、怪我してる。」

「少し擦りむいただけよ。」











あたしは強がってみせた。
そうするしかない気がして。
シェーマスは苦笑いしていた。









「強いんだな・・・女の子なのに、男三人にひとりで立ち向かうなんて。」

「・・・・・。」









シェーマスの手がそっと、ボサボサに乱れたあたしの髪をなでる。








「もっと早く、僕が駆けつけてやりたかったな。
ごめん・・・・・。」

「うううん・・・助けてくれてありがとう。」

「いや・・・助けるって言うより、守るよ。
僕が守ってみせるよ、君のこと。
本当は知ってるんだ・・・君が強がりだって言うこと。」

「べ、別に・・・私は強がってなんか・・・」








そんな風に言っていながらも、あたしの目とのどの奥が熱くなる。
気づけば、勝手に涙が溢れていた。
本当は悔しくて、悲しくて、たまらなかった。

だけど_________・・・






「・・・いいさ。僕の前でだけは好きなだけ泣け。
こうすれば、泣き顔が見えないだろ?」










ふわっと伸びてきた優しい手は、シェーマスのローブに押し当てられる。







「ダメ・・・シェーマスのローブとネクタイ、汚れちゃう・・・。」

「そんなこと、気にするな。気の済むまで泣けよ。」







きっと、この涙は幸せの涙だ。
シェーマスがあたしの隣にいてくれることが
嬉しくてたまらなくて流れた涙だ。

あなたの手があたしの背中にまわされるだけで、
泣けちゃうほど幸せなのだ。




++END++

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