TOX
□大切ということ
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「な、無い……」
すぐ後ろから絶望に染まったような声がして、ミラは足を止めて振り返った。
その先に突っ立っていた少年は、思わずぎょっとしてしまうほど真っ青な顔色をしていた。
「ど、どうしたジュード」
「無い…無いんだあれが…どうしよう……っ」
「落とし物か?何を落としたんだ?」
尋ねれば、ジュードはくしゃりと顔を歪める。
今にも泣き出してしまいそうだ。
「ミ、ミラに貰ったペンダント…」
ジュードにあげたペンダント。
ミラには一つしか思い当たらなかった。
ガンダラ要塞での攻防の際、立てなくなるほどの重傷を足に負ってしまったミラ。
ペンダントは、そんな彼女の足を治す為に、故郷に居る自身の父親に診てもらおうと言って連れ出してくれたジュードに贈った品だった。
人は、信頼を形にする。
ドロッセルからそう聞いていたから贈ったのだ。
自分の為に一生懸命になってくれる、心優しい少年に。
ミラにとってそのペンダントは幼少の頃の思い出が詰まった大切なものだったけれど、ジュードになら、あげてもいいと思えた。
彼もそれの大切さが分かっているから、今こうして大慌てしているのだろう。
けれど。
「無くしてしまったものはしょうがない。ジュード、君もあまり気にせず……」
「気にするよ!」
語気を強めて遮るジュードにびっくりして目を丸くする。
彼はとても真剣な表情をしていた。
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