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□草食系男子の奮闘
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「ジュードは草食系男子なのか?」

「………へ?」


その言葉は突然、本当に突然、ミラからジュードへ向けて投げかけられた。
旅の途中、静かな木陰で休んでいた彼は当然困惑を露にする。


「え…、え?いきなりどうしたの?ミラ」

「レイアが言っていたんだ。ジュードは草食系男子だと」


ばっ、と弾かれたようにジュードが振り返れば。
少し離れたところでエリーゼと談笑していた幼馴染みが、こちらと目が合うなり素早く顔を背けた。

また変なことをミラに吹き込んで、と内心溜め息を吐く。
ミラは年齢や外見こそ大人ではあるけれど、その実、人間の知識に関してはまだまだ赤ん坊なのだ。
だから言われたことを鵜呑みにしてしまったり、疑問に思ったことをこうしてぶつけてきたりする。
それに受け答えする様は子供の成長を見守るようで、こちらとしても楽しくはあるのだけれど。

さて、とりあえず、先程から瞳を輝かせて回答を待っている精霊の主の質問に答えることにしよう。


「自分じゃそういうのよく分からないけど…多分違う…と、思う」


はっきり否定できない自分がちょっぴり情けない。


「そもそもミラは草食系男子の意味を知ってるの?」

「いや…。それも含めて君に訊こうと思ってな」

「ああ…えっと……」


発言者であるレイアではなく自分に尋ねてくれるのは嬉しいが、内容が内容なだけに素直に喜べなかった。
そして男の口から説明するのも何だか憚られる。
だが彼女の期待には応えてあげたい。

悶々と頭を悩ませるジュード。
そんな姿を見たミラは、彼にも分からないのだと見て取ったようで、自らも考えはじめた。


「草食系……ということは、草を食べる動物に例えているのか?」

「いや、そうじゃなくて…その……」


もごもごと言葉を濁らせ閉口するが、やがて諦めたように再び口を開く。


「草食系男子っていうのは…れ、恋愛にあまり積極的じゃない男の人のことを言うんだ」

「なるほど」


得心がいったとばかりの表情でミラが相槌を打つ。


「つまり兎や小鹿のようにびくびくと震えて、自分の気持ちをはっきり言えないということか。そう言われると確かに、ジュードは草食系男子かもしれないな!」

「!?」


悪意の全くない、無邪気な笑顔で放たれたそれは、十五歳の少年に雷に撃たれたような衝撃を与えた。




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