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□Dr.sugar !!
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風邪を引いてしまった。
不覚にも。
刹那は身体の抵抗力は強い方だ。
自分でもそう確信しているし、例え艦内の人間が全員インフルエンザにかかったとしても、自分だけはかかるはずないと思っている。
なぜなら自分は多分遺伝的に優秀だから(当社比)。
少なくともあの変態ダメ男(言わなくても分かるだろう)よりは、自分はあらゆる点で優れていると思う。
―――しかしそんな屁理屈も今日の風邪で一瞬にして崩壊してしまった。
エクシアの整備を終えた刹那は、機体から降りた後、何故か身体のダルさを感じその場に倒れてしまったのだ。
偶然居合わせたキュリオスのパイロット、アレルヤ・ハプティズムにその身体を支えられ、なんとか床に頭を打つことだけは避けられた。
しかし周りの人間に自分の失態を晒してしまい、身体の熱もあやかって赤面してしまったことを覚えている。
「……刹那、大丈夫?」
アレルヤに身体を支えられて何とか医務室まで運んでもらい、専属の医師を呼ぼうとしたのだが、肝心の医師が見当たらない。
どうやら緊急出張のようで、数時間後に戻るとのことらしい。
そんなんじゃ医務室の意味がないじゃないか、とキレかかったのだが、アレルヤは「…しょうがないね」と言って刹那を無理やりベッドに横にさせた。
「身体を拭くから待ってて」と、蒸しタオルを取りに行こうとしたのだが、刹那はそれを丁重に断ったので、アレルヤは自分に出来ることはない?とそわそわしたのだった。
「刹那、治るまで一緒にいてあげようか?」
「………いい」
何で男に付いていてもらわねばならんのだ。
「じゃあ薬飲ませてあげようか?」
「………いい」
アレルヤはドイツ語が出来ない。
誤って変な薬を飲まされたら大変だ。
「リンゴの皮を剥いてあげようか?」
「………いい」
アレルヤがやるとリンゴが温かくなりそうだ。
「…じゃあ座薬でも……」
「……………いい!!」
「……………………(しょぼん)」
今は誰にも会いたくない。
どうでもいいから早く出ていって欲しい。
それが今の刹那の切実な願いだった。
「本当に大丈夫かい、刹那?僕、まだキュリオスの整備が終わってないから行っちゃうけど…」
「……あぁ、済まなかった」
自分に出来ることはもう何もないと悟ったアレルヤは、これ以上刹那を不機嫌にさせない為に、医務室から出ていこうとする。
しかし「じゃあね」と言っているわりには、隅っこのドアの方でいつまでも刹那の方をじーっと見ていて、一向に出ていく気配はない。
その視線に耐えきれず、刹那は朦朧とする頭でイライラしながら、
「………何だ」
とアレルヤに聞いてみた。
するとアレルヤは、泣きそうになりながら
「…だって刹那が心配なんだもん!」
と答える。(子供か!!)
アレルヤは善意で刹那を心配してくれているので、刹那はあくまでも善意でアレルヤに言う。
「……俺は平気だ。先生が来るまで大人しく寝てるから」
その声にアレルヤははらはらしながらも
「……絶対大人しくしてる?」
と聞き返す。
「………あぁ、大人しくしてる」
刹那は答えた。
「……絶対?」
「あぁ」
「熱が上がったらすぐに呼んでね」
「あぁ」
「トイレは角曲がってすぐだからね」
「あぁ」
「リンゴが食べたかったらすぐに言うんだよ?」
「あぁ」
なぜそこでリンゴにこだわると突っ込みたくなったが、刹那はアレルヤの忠告に全て適当な返事をした。
ようやく満足したのか、天然アレルヤは「じゃあお大事にね」と言って、やっと医務室から出ていった。