謙也連載

□曇るこころ、募る想い
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その日はまったくといっていいほど授業が頭に入らんかった。


肘をついたままぼんやりと黒板を見つめとって浮かんだんは、昨日の篠原さんの赤い顔。

えらい可愛かったなあ、なんて思う反面、その向かいにいたのがユウジだったことを思い出すだけでよおわからん感情が胸と頭をいっぱいにする。


あのあとはなんとなく気まずくて逃げてしもうた。

俺はどこまでヘタレなんや。
放課後の部活でもあの時何があったかユウジに聞けずじまいやし、ほんまどうしようもない。




そんな風に自己嫌悪しながら小さくため息を吐き、外に視線を移す。


開いた窓から流れてくる風が心地ええ。
どこかのクラスが体育をしとるようで、先生の吹く笛の音が風に乗って聞こえてきた。

男女離れてはいるものの、どちらも陸上競技をやっとるらしい。女子は短距離走、男子はハードル走か。

ええなあ、俺も走りたい。今日の時間割に体育がないのがめっちゃ残念や。



そのままざっとグラウンドを見渡しとると、目立つ頭が目に入った。

坊主頭の隣に青緑の髪でバンダナ姿。ああ、小春とユウジやな。遠くからでもわかりやすいなあほんま。相変わらず距離近いし…


と、そこまで考えて俺の頭は一瞬停止した。




「(篠原さん、おるやん)」




俺の記憶が正しければ、ユウジと小春、それから篠原さんは同じクラスやったはずや。おん、間違いあらへん。

気づけば俺はグラウンドに篠原さんの姿を探していた。





「(…おった)」



見つかるんは早かった。

スタートラインに立つ、その姿。ひとりキラキラして見えるんは気のせいやろか。


やがて笛の合図と共に、彼女が走り出す。ああ、やっぱり足速いんやな。横に並んだクラスメート達を次々抜いて軽快に駆けていく姿が、俺の目を捉えて離さない。



流れ星みたいやな、と我ながらクサいことを考えた。でもあながち間違いではないというか、その表現が一番合っとる気がする。


ゴールした篠原さんは自分のタイムを聞いたあと、手を振る小春に控えめに振り返しとった。



…羨ましい。そう素直に思うた。


なんで俺と彼女のクラスは違うんやろ。なんでこないに離れとるんやろ。こないだと同じように、もやもやとした気持ちが募ってゆく。



と、ふと篠原さんがこちらの校舎のほうを見上げた。

ドキン、と心臓が跳ねる。なんで、なんでこっち見とるんや篠原さん…!


向こうから俺の姿なんて分かるはずがないのに、ずっと見ていたことがバレるんやないかと変な後ろめたさが生まれる。




アカン、変な汗かいてきた。

耐えられなくなった俺は、英字で埋め尽くされた黒板へと視線を戻しペンを握った。






曇るこころ、る想い


(集中できへんっちゅー話や…!)




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