謙也連載

□見えない君と空模様
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今日の体育は大好きな短距離走。天気も快晴、気温もちょうどいい。私の心は浮き足立っていた。


「せり、お疲れさま!」


ゴールした私を笑顔の佳代ちゃんが迎えてくれ、その後方では金色くんが「ええ走りやったでー」と手を振ってくれた。

タイムもなかなか良かったらしい。
陸上選手になるとかそんなわけではないけれど、やっぱり数字で見ると嬉しいなあ。
そんなことを考えながら息を整えていると、不意に佳代ちゃんが耳打ちをしてきた。



「二階の窓見てみ?」


一体なんだろう。言われるがまま校舎を見上げる。すると




「謙也、くん?」



窓際からこちらを見る人と、目があった。

すぐに見えなくなってしまったけど…今のはきっと謙也くんだ。


二階の教室とグラウンドじゃ距離もあるし、見間違えかもしれないと一瞬目を疑ったけれど…あの太陽みたいな髪とヒヨコのような跳ね方は、謙也くんしかいない。


「ずっとこっち見とったで」


そう佳代ちゃんに言われ、ドキドキと胸が高鳴る。


もしかして走るところもずっと見られていたんだろうか。自意識過剰にも程があるけど、でも、もしかしたら。そう思うと…なんだか恥ずかしくなってきた。じわじわと顔に熱がたまるのが分かる。



「いやー青春やなあ」

「でっ、でもよく気づいたね」

「白石からメール来てん。『謙也がずーっと外見てんのやけど、今そっち体育か』って」

「白石くんから?」


白石くんと佳代ちゃんは佳代ちゃんの彼氏さんの繋がりでメル友でもなんらおかしくはない。

ただ、なんでそんなことをわざわざ報告してきたんだろう…というかなんでそれで体育だってわかったんだろう。


そこがいまいちよく分からず首を傾げていると、そういえば、と佳代ちゃんがずいっと寄ってきた。



「昨日の放課後テニス部行かんかったってほんま?」


ぎくっ

漫画で表すならそんな感じの効果音がつきそうだ。いきなり話題が変わったと思いきやそれを聞かれるなんて。というか何で知って…ってああ、彼氏さんか白石くんが教えたのかな。
昨日の放課後…といえば、テニス部に行ってまた謙也くんに話しかけてこいという旨のメールを佳代ちゃんから貰った。貰ったけど…一氏くんと謙也くん絡みで色々あったせいで結局テニス部には寄らなかったのだ。というか寄れる感じではなかった、私のなかでは。(謙也くん黙って教室出ていっちゃった、し)




「ふむ…その様子やと何かあったんやな」


さすが佳代ちゃん、鋭い。

私が問い掛けに俯いたままこくりと頷くと、「せやったら昼休みにでも報告聞くわ」とにっこり笑ってスタートラインに向かって行った。




「……謙也、くん」


今日は、話せるだろうか。

彼の見えなくなった校舎を見上げため息を吐くと、やがて佳代ちゃんたちのグループがスタートする合図が聞こえた。



さっきまで晴れ渡っていた空は、どんよりと重たい雲が広がってきていた。





見えない君と模様


(一雨きそうだな…)



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