謙也連載
□きらり、輝いた
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「いいじゃん、一緒に遊ぼうよー」
「や、あの…困り、ます」
部活も終わり、今日は好きなアーティストの新譜でも買って帰ろうかと考えながら歩いていると、ふとそんな会話が耳に入ってきた。
見れば前方でウチの制服を着た女子が他校の男子に絡まれとる。腕を掴まれた女子が明らかに嫌がってるっちゅーことはナンパやろか。
「ちょっとだけだからさ、ね?」
「や、やめてください」
「嫌がっとるやん、その子」
同じ学校やし、彼女はめっちゃ怖がっとるし…そないな所見て見過ごせるわけがないっちゅー話や。
俺は気づけば二人の間に立って男の手を掴んどった。
「なに、この子の彼氏?」
「…せやで」
「えっ」
この場をやり過ごす為にとっさに答える。
驚く女子に「話合わせとき」と小さく耳打ちし微笑むと、彼女はこくんと弱々しく頷いた
ように、見えた。
「っ、」
瞬間、びゅんと強い風がすり抜け思わず目を閉じる。
…って風?突風にしてはおかしいやろ。
今吹いたのは確かに俺と彼女の間だけや。
そう思い恐る恐る目を開けると
「…は?」
目の前に居るはずの女子が、居らんかった。
「え、ちょ、足はやっ…!?」
訳が分からず唖然とする俺の横で、ナンパ男が驚嘆の声をあげて前方を指差す。まさか、んなまさか。
「は、速っ!」
俺が叫んだ時には、彼女はだいぶ遠くへと駆けて行った後やった。そらもう、浪速のスピードスターである俺に負けないぐらいの速度で。
なんやあのものすごいスピードは。
陸上部か?いやいや、陸上部にあんな大人しそうな子は居らんかった。(俺の記憶では)
開いた口が塞がらんとはまさにこの事や。
「彼氏なのに置いて行かれたね」
呆然と彼女を見つめる俺の肩を、ナンパ男が可哀想とでもいいたげな口振りでポンと叩いた。
きらり、輝いた
(一体何者なんや…)
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