謙也連載
□あふれる熱
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「どうしちゃったんだろう…」
あああ本当にどうしちゃったんだろう私。
人見知りな癖にどうして昨日わざわざ頑張ってくださいなんて言ったの。どうしてあの人ばっかり見ちゃってたの。どうして、どうして。
「せり、どないしたん?」
「佳代ちゃん…」
机に伏せて悩んでいると、佳代ちゃんが心配そうに私の顔を覗き込んできた。佳代ちゃんは人見知りな私にとって唯一無二の親友だ。
でも…実はまだこないだの事は話していない。早く相談したかったけれどなかなか話す機会がなかったのだ。
今なら…相談するチャンスかもしれない。
そう踏んだ私は周りを確認すると、前の席に座った佳代ちゃんにひそひそ声で数日前の出来事と、昨日の出来事を話した。
「一目惚れやな」
話しが終わるなり、佳代ちゃんはそう言ってうんうんとひとり頷いた。
それに対し、そんな答えが返ってくるとは思っていなかった私はぽかんと固まる。
だって、一目惚れ?
だ、誰が誰に…?
「…はあ」
するとそんな私の様子を見た佳代ちゃんは、ため息を一つ吐いたあと眉間に皺を寄せて私の頬を引っ張ってきた。
じ、地味に痛い。
「い、いひゃいれす」
「自覚なさすぎやで自分」
「ふぁ…?」
「アンタのそれは確実に恋や。一目惚れや。賭けてもええ」
“そうでなきゃ会いに行ったりわざわざ呼び止めて応援の言葉かけたりせえへんわ”
真剣な目で佳代ちゃんはそう言って、掴んでいた手をそのまま左右に動かす。
恋?一目惚れ?これ、が?
「また“けんやくん”に、会いたいんやろ?」
「部活、頑張ってください」
「お、おん!おおきにな!」
佳代ちゃんの言葉に彼の姿を思い出す。
私より高い背丈。風に舞う綺麗な髪。何より、昨日のキラキラと輝く太陽みたいな笑顔。そして私を助けてくれた時の真剣な表情。
「けんや、くん」
ひとつひとつ思い出す度に心臓がどうしようもないくらいドキドキする。頭がいっぱいいっぱいになる。顔が熱くなる。
また、会いたくなる。
「会いひゃい、れす」
「素直でよろしい」
私がぽつりと呟くと、佳代ちゃんは頬から手を離して満足げに笑った。
あふれる熱
(この気持ちが、恋なんだ)
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