TENNIS2
□ロマンチックには程遠い
1ページ/1ページ
「うんめー」
私は今とても苛立っている。
何故かなんて理由は単純明快。
目の前の赤毛がまるで見せつけるように貰い物のケーキを頬張っているからだ。
そりゃ放課後なのだから丸井が何をしようと自由だし、別にケーキが食べたいわけでもない。ただ腹が立つのはコイツがちょうど帰路に着こうとしていた私をわざわざ呼び出したという事だ。
げた箱で靴を履いていたら携帯が鳴り、向こうから聞こえてきたのは「B組来て」の一言のみ。
急用かと仕方なく教室に来てみれば丸井は私を自分の後ろの席に座らせ、その机に置かれた箱に入っていたケーキを食べ始めた。
「用がないなら帰るよ」
そう告げれば返ってきた言葉は「まあ待てって」。待てってあれか、丸井がケーキを食べ終わるまで待てと。そんな自分勝手にもほどがあるでしょう。私は早く帰りたいのに。ああもう何なの。
ギロリ、早くしろと念を込めて丸井を睨みつける。
奴はそれに気づかないのか、はたまたわざとなのか、手元のフォークをゆっくりとした動きでくわえてもう一度「うんめー」と声を上げた。
「丸井、早く」
「あー 分かってるって」
何を分かってるっていうんだ。
呑気なその声と動きに私のイラつきは限界を迎えた。私はばっと丸井のケーキが入った箱を取り上げると、それを後ろ手に隠した。
「なにすんだよ」
丸井が恨めしそうに視線を送る。
「返して欲しかったら今すぐ用件言って」
「……」
私も負けじとさっきよりも強い念を込めて睨みつけ返す。
すると数秒したあと丸井はチッと舌打ちをして、観念したのか持っていたフォークを机に置いた。やっと言う気になったか。私はケーキ入りの箱を横の机に置くと、ため息混じりに「用件」とだけ告げた。
「…はー、わかったわかった」
丸井が私よりも深いため息を吐いて立ち上がった
と思った瞬間、伸びてきた丸井の腕は何故か私の胸倉を掴んだ。
え、ちょっと、まさかケーキ如きで女の子殴る気ですか丸井クン。独特のその気迫と恐怖に、私の背中を冷や汗が伝うのが分かる。怖い、冗談抜きにものすごく怖いんですけど。
「ま、るい」
「ちょっと黙ってろぃ」
殴られる。
直感的にそう思いきつく目を閉じた。
けれど次の瞬間感じたのは痛みではなく、
「はい、用件終わり」
唇への温かさ、で。
驚き目を見開くと顔を真っ赤にしながら笑う丸井が目の前にいて、私は怒りも忘れ其処にただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
ロマンチックには程遠い
(ほんのりと、)(丸井が食べていたチョコケーキの味がした)
お題拝借:ひよこ屋さま
04/25.銀七