□経口投与
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「会いたかった」

そう言って私を抱き締める腕の力は徐々に強くなっていく。

「阿近さんて、勝手ですよね」

「自由だって言ってくれよ」

はーっ、と息を吐き出しながら私の頭を撫でる。白衣に残る煙草の匂いを脳の奥深くにまで感じた。煙草は、本当は好きじゃないんだけど。

「自由な阿近さん」

「はいよ」

「阿近さんは、なんで私のところに?」

至って自然な質問。
阿近さんは仕事が片付いたり行き詰まったりするとこうして私の所にやってくるわけだけれど、特別な関係を持った覚えはない。

「そりゃお前、会うためだろうが」

「だから、何故会いに来るのか聞いているんです」

冷静なその瞳は、私の目を見据えて固まる。そして宙に視線を移し自分の頭を覗くような仕草をした。

「癒しの為とか?」

「そんなの猫や犬の方が適任だと思う」

「あれだろ、女が良いんだよ」

「だったら八番隊に阿近さんに告白した方がいたじゃないですか、私よりずっと綺麗な」

「…だよなあ?」

いよいよ深刻な顔になり始める。このひと本当に頭良いのかな。
理由が無いまま行動するなんて科学者らしくないというか、彼らしくない。飄々としながらも、確かな歩みを持つのが阿近さんなのに(尤も、これは私の印象にすぎないけど)。

「あ、」

何か閃いたような声を聞き俯けていた顔を上げる。

殺那、唇は重なった。

「悪い、俺お前のこと好きだわ」

そう言った後、阿近さんは少し困ったように笑った。







経口投与
(塞がれた口へ注がれたのは間違いなく)
(濃度100パーセントの、愛)







企画:
モノトーンな世界


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