第一章

□林檎と洋梨の話
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喫茶店『Black SPHIA』から聞こえてくる若い男の声
埃の中に紛れ込むパイの匂いは、ついお腹がなってしまいそうになる。そんな午後。




「ラス子ー!パイの方はどうだ!」

「順調ですカラスくーん!でもなんかニシンの顔が黒くなってきてます!」

「焦げてんだバーカ!!!さっさと出せ!」




釜戸から取り出すと、大量の湯気と共に、キツネ色に焼けたニシンのパイが姿を現した。
多少模様を付けた頭の部分が焦げているのは、ご愛嬌。




「わー!おいしそうです!」

「ま、俺にかかればこんなもんだ」

「でもよかったですね、ギックリ腰治って」

「完全復活ってわけでもねーけどな、日常生活に差支えがない程度には治ってるってよ」

「そうですかー・・・」

「ほら、さっさとユダのやつ呼んでこい。飯にすっぞ」

「はーい」









昼食を終え、喫茶店の特等席である日当たりの良い椅子に座り
食後のアールグレイを飲むユダと、工具の手入れをしているカラス。



「はー、美味しかった!今日のは魚のパイでしたっけ、ナポレオンフュッシュ?」

「ニシンだ馬鹿」

「そうそう、ニシンニシン、美味しかったですよー」

「ったく、無理に感想言わなくてもいーっての
俺様の作る料理がうまいのは当たり前のことだからな」

「あ、ラースティーちゃーん!」

「って聞いてねーし、・・・おい、なんだその格好は」


庭で3つの小さな芽に水をやっていたラスティを見つけ、ユダはそちらに走っていく。
カラスがラスティに目をやると、ガスマスクなど体中に防護服を身にまとったラスティがいた。



「カラスくん」

「僕たちこれから皿洗いするんですよ、っねー♪」

「ねっー♪」


ラスティから受け取ったガスマスクを身に付け
二人で仲よさげに顔を見合わせる、ガスマスクで表情は見れないが。


「ねっー♪っじゃねぇ!!!!嬉々としてガスマスクつけんじゃねえよ!今日はだめだ」

「え、なんでですか」

「そうですよ、折角僕たちやる気になってカラス君のお手伝いしようと思ったのに」(棒)

「棒読みで言うな棒読みで、今日はキッチンの修理すんだ、てめーらが壊した換気扇やコンロのな」


二人を睨み、凄んで言うカラスの迫力に怯む二人。
ガスマスクを掴みゴミ箱に投げ入れると、それぞれの背中を押し外へとおいやった。



「お前らがいたら邪魔だから、どっかで遊んでこい
あ、ラス子、ついでに買い物してきてくれ、これリストな」

「は、はい」

「じゃ、俺がいいって言うまで帰ってくんな。あと飯何がいい」

「え?えっと・・・」

「僕オスシがいいなカラス君!」

「却下、ラス子は?」

「あ、え?えーっと、グラタンっ、グラタンがいいです」

「グラタン?あー・・・まぁいっか、わかった、じゃいってらっさい」





バタンッ









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