何処とも知れぬ世界、何時-イツ-とも知れぬ時代-トキ-

□初雪
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さて、其の頃部屋の外。
自分達の自室で先程見た上物との生活を想像して期待に胸を膨らませていたゴリラの腰巾着達は、和尚と男の出て行く様子を見計らい、自分達のボスである和尚をも差し置いて我先にと客室へと向かった。

「邪魔だ、退けぇ!」

「其はオマエの方だろ!デカい図体しやがって!」

「んだとぉ!?このガリが!!」

…この寺は最早終わっている気がする。
寺では有り得ない程汚い口調の口喧嘩を部屋に着く手前で治めて引き戸に手を掛け、戸を開けると。

「…いない!?」

部屋は早くも蛻(もぬけ)の空となっていた。





僧侶達が扉を開ける数分前。

「ちょっとくらいならいいよね?」

少年は誰も居なくなった客室を勝手に抜け出していた。

「…やっと御父上や御母上の監視から逃れられたんだ。暫く自分の住む処の見学くらい許してくれる…筈。
其に、何か新しい発見が在るかもしれなっ!?」

ガッ、ドサ。

考え込みながら歩いていた少年は、何かに躓(つまず)いてコケた。

「………痛。」

この言葉は少年が発した物ではない。少年は四つん這いになって床を拭いていた青年有髪僧に躓き、そして巻き添えを喰らわせてコケ、挙句の果てに下敷きにした、という寸法だ。

「ごっ、…御免為さいっ!!
真逆(まさか)こんな処に人が居るとは思わなくて……」

少年が申し訳無さそうに項垂れると、其はもう可憐な少女にしか見えなかった。

「大事無い。……何故、女が寺に居る?…其の歳で尼僧志願か?」

ブチ。

「………僕は女の子じゃ在りませんっっ!!!」

常日頃女と間違えられる為に貴族の跡取りとして困る、と容貌に不安を抱えていた少年は謝っていた事も忘れてキレた。
其の様な負い目等、青年が知る筈もなく。

「……本当に男なんだな?
…此処は危ないから家に帰った方が良い。父さんと母さんも心配して」

ベシン!

女扱いの次に子供扱いで追い討ちを掛けられ、少年は青年の頭を思いっきりひっぱたいた。

「馬鹿にするのもいい加減にしろ!僕は男だし子供でもないっ!!」

其だけ云い棄てると走って客室へと戻って行った。

「………何だ、あいつ」

青年は少年が去って行った方向を呆然として暫く見つめていた。





客室に戻った少年は凄い勢いで口論している和尚とその他大勢を見つけ、少年を目にした一同は人が替わったかの様に少年に優しく接した。
そして夕食の時間がやって来る。





夕飯と呼ばれて食事の間へとやって来た少年は目を見張った。

「すごい…」

少年の眼前に並んでいたのは、到底精進料理とは思えない様な目にも鮮やかなご馳走。

「さあさあ、しっかり召し上がって下さい」

和尚やその他の僧が気味悪い程の笑顔で少年を横目で見ながら夕食を食べる。その中に昼間の有髪僧は居ない。少年は僧達の視線の不審さに気付かず、出された物を全て平らげた。

「…少し食べ過ぎた様だ。部屋に下がっていても良いだろうか…?」

どうやらこれから皆で遊ぶ用意をしていたらしい和尚は、少し残念そうな顔をした後、にっこりと笑った。

「はい。では後ほど部屋に胃腸薬など、持って参ります」

「いや…そこまでしてもらう必要はないだろう」

「そうですか…。それでは、ごゆっくり」

少年はそわそわと落ち着かない様子の僧や和尚を残して部屋を後にした。


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