何処とも知れぬ世界、何時-イツ-とも知れぬ時代-トキ-

□牡丹雪
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自分の傍らで泣きじゃくる少年の方を見もせず、有髪僧は空中を見つめて「そうか」とだけ言った。
暫くすると少年は泣き止んだ様だったが、人前で泣いた恥ずかしさからか、小部屋を出て行こうとした。

「…何処行くんだよ」

有髪僧の言う通りだった。
部屋から出ればあの無体な僧達に見つかるかも知れない。やっとの思いで逃げ出したあの言い表せない恐怖にもう一度直面するよりは、プライドを棄てた方がましだった。

「…此処に…居てもいいか?」

「最初からそのつもりで連れて来たんだがな」

本当に自分を助けようとしてくれていた嬉しさとその安心感で、少年は自ら有髪僧の隣に腰を下ろす。
二人共が何も喋りもしない状態に、少年はいつの間にか寝息を立てていた。
少年が寝ついて間もなく、有髪僧は少年を横抱きにして運ぶ。気を張っていた所為でかなり疲れたのか、少年は起きない。有髪僧はそのまま少年を自分の布団にそっと下ろし、毛布を掛けてからそのさらさらの髪を撫でて安心しきった寝顔を見つめていた。


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