Red×Gray

□第三話 インカの宝
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第三話 別れと出会いと誓い
―『太陽の杖』―
 突然『太陽の神殿』の中庭から炎の波が現れた。波は扇状に広がり、少年を空中へ舞い上げる。「バウリ!!」トゥーエサは悲鳴をあげた。バウリの体は空中へ投げ出され、服には火が燃えている。「やりすぎだ。」ベリテスが動こうとしたとき、トゥーエサが立ち上がり、虚空に向かい叫んだ。「コリ!!我が弟を助けたまえ!!」
 炎の波が消えると、バウリの体は降下した。階段に背中からたたきつけられ、鈍い音がした。回転しながら階段を落ちてくる。
 そのとき、バウリの前に金色の壁が現れた。壁はバウリを受け止め、液体のようになり包み込むと、ゆっくりと階段をおりた。
 ベリテスがトゥーエサの方を向いた。「たいしたもんだな。<魔方陣>なしに悪魔を呼び出すなど。」
 そして、金色の液体を見た。「そうか、あれがきみたちの“神”か。」ベリテスが合図すると、兵士がトゥーエサをおさえ座らせた。トゥーエサはただ弟を心配していた。ベリテスがバウリの方へと近づいていく。
 液体は階段の一番下につくと球体から板状に変わり、バウリを冷たい石畳の上に寝かせた。液体はさらに形を変え、金色の獣になった。この地域でジャガーと呼ばれる生き物だとベリテスは思った。獣は目を閉じたままのバウリを心配しているようだ。鼻先を額に近づけ、黒髪を触る。
 ベリテスが近づくと獣はおびえた様子を見せた。ベリテスは獣を見下ろし満足そうに笑った。「“コリ”…黄金の精霊か…。」ベリテスが指を鳴らすとトゥーエサの目の前から悪魔が消える。そして、煙とともにベリテスの隣に現れた。そして、悪魔が手を振り上げる。
 その瞬間コリは牙をむき、威嚇する。すると、悪魔の体は黄金に包まれ固まった。悪魔は重力に従い、地面に落ちた。コリは低いうなり声をあげ、バウリを守っている。ベリテスは口の端をあげ笑うと、手をパンとたたいた。すると、黄金の塊はバキバキと音をたて、ひびが入り、はがれていく。そして、魔人は再び姿を現した。口から黒い煙をはき、低いうなり声をあげる。悪魔はコリに近づき、口を開いた。のどの奥はマグマのように赤く、腐臭がする。体はコリの数倍。コリはしりごみしたが、どこうとはしない。
 ベリテスが悪魔を止めた。「食うなよ。そいつは金になる。」悪魔はちらりとベリテスを見て、身をひいた。悪魔はコリの首をつかみ、バウリから引き離す。コリは爪をたて、かみついて手から逃れようとするが、悪魔は気にもとめていない。
 ベリテスはバウリの横に立つと、トゥーエサとアタワルパを見た。そこにハビルがゆっくりと優雅に階段をおりてきて、バウリの首に銀色の刃をつきつけた。
 ピサロはその様子を満足そうに見ると、隣にいた兵の隊長らしき人物に何かを言った。その人物はうなずくと、広場に向かい大声で言った。
 「構え!!」トゥーエサたちには何を言ったのかわからなかったが、広場にいた兵士たちは素晴らしいともいえる完璧な息で、一斉に市民に槍や剣を向けた。

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