Red×Gray

□第四話 別れと出会いと誓い(仮)
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 しばらく沈黙が続き、バウリはいろんなことに思いをはせていた。帝国を見下ろす山の上の景色、気高く鳴くコンドルの声、人々との交流、全てが浮かんでは消えていく。慣れ親しんだ緑の故郷から離され、これから行くスペインというところはどんなところなのだろうか。着いた後は?父は死に、自分たちは生き残る。しかし、それはいつまで?長く生きられるとはとうてい思えない。何にも知らない土地で、知る人のいない場所で生きることなど考えただけで吐き気がする。自分で決めたのならまだしも、連行されるのだからなおさらだ。
 第一、父は自分たちを生かすためにああ言ったが、『杖』の存在を疑っていた自分が『杖』の使用法など知るはずがない。記憶をたどってみてもそれらしきことは何もない。たとえ父が伝えていたとしても忘れている可能性が高い。 そんなこと考えたって無駄だ。バウリは思いなおした。知っていようがいまいが、自分たちは自由になることなど無いのだろう。一生やつらに見張られ生きるか、いや、『杖』の使用法を無理矢理思い出さされ、教えたとたん殺されると考えたほうが正しいだろう、もしくは思い出すまで、教えるまでひどい仕打ちをうけ続けるのだ。後者のほうがあり得るとバウリは思った。まったく思い出せる気がしないからだ。
 でも万が一、もし、思い出せたなら、教えてしまおうか。知らない土地で希望もなく生きるより、死んでしまったほうが楽だ。バウリはだんだんと無気力に襲われ始めた。そうしよう。あいつらが『杖』をどう使おうと興味ない。それが無理だったならこののどをかききるか、舌を噛み切って死ぬことにしよう。

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