24hours of Vampire

□STORY0―呼び起こされる痛み
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 奥はまだ無事だったようだ。通路の両側にある彫刻も傷つくことなく残り、通路は静かに奥へと二人を導いていく。青年はきょろきょろと彫刻を鑑賞しているが、タイスはわき目もふらず、ただ歩き続けた。そう、戦争はとっくに終わりを迎えるはずだった。しかし、世界は混沌へと陥れられた。
“DFV”―“神の聖団”―
こいつらのせいだ。こいつらが世界を混沌へと陥れた。
タイスはうずく胸をおさえた。一瞬だが痛みが走る。“こいつ”のせいで自分の運命はねじまげられた。
 タイスは立ち止まる。そして、天を仰いだ。青年は通路の終わりに気づき、急いでタイスを追った。すると、タイスはホールの真ん中で突っ立って、天を仰いでいる。青年もタイスの視線の先を目で追った。
 ホールは静かだった。まるで、外とは別世界のように。巨大なステンドグラスが月の光を受け、美しく不思議な輝きを放っている。そして、その前には十字架が掲げられている。青年は顔をしかめた。いきなりタイスがうめき、座り込む。青年は驚いて、タイスに駆け寄る。タイスは少し咳き込むと、青年に支えられ再び立ち上がった。苦しそうにあえぐ口からは人より長いとがった犬歯が見える。血を吐くと、タイスの苦しそうな表情は消えた。「飲んだ血が悪かったのかね?」タイスは小さく笑った。青年は悲しそうに笑った。同じ境遇の者としてその冗談は救いにはならなかった。タイス自身も思っていた。青年の悲しそうな笑顔にタイスは静かにつぶやいた。「終わりが近いかな・・・。」 聖堂に鐘の音が鳴り響いた。優しく、強く、けれど重く。二人は十字架を見上げる。上からはステンドグラスに彩られた月の光が二人に降り注ぐ。タイスはもう大丈夫と、青年に笑いかけ、すっと体をのばした。「時間が狂ったんだな。」タイスは言った。
 「ひとつ聞いてもいい?」青年の問いかけにタイスはほほえんで青年を見た。「タイスはどうして“ヴァンパイア”の血を?」タイスは再び天を仰ぐ。鐘の音が二人を包む。タイスの頭に懐かしい思い出がよみがえってきた。
 タイスは再び胸を押さえた。こいつのせいで自分は運命を捻じ曲げられた。そして、あいつも―。

 鐘の鳴る夕方。教会の扉を開ける。

 悪夢は突然始まった―




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