24hours of Vampire

□STORY7―探し物
2ページ/6ページ


 タイスは近いファストフード店で軽い昼食を買うと、細い路地のビルの影で壁にもたれて食べながら、ルーディンに言った。「その人の手がかりってないの?」ルーディンは座ってハンバーガーを食べている。「・・・ないな。それについては何も君の両親も知らなかったようだし。」「どいうことよ、それ。」「ちゃんと顔を合わせたことがないらしいんだ。ただバイオ技術の天才だっていうのはその世界ではかなり有名な話だそうだ。」
 タイスは眉をひそめた。「そんな有名な人なら世間の人に知れてたっていいようなもんよね・・・」ルーディンはタイスに何か言いた気な目を向けた。タイスはすぐにその意図をくみとった。「国の秘密・・・ってやつか。しかも、国に逆らった父さんと母さんが紹介したってことはその人も・・・国に逆らっている・・・。」ルーディンはうなずいた。
 タイスは最後の一口を飲み込むと、ハンバーガーを包んでいた紙をくしゃっと丸めた。「要は裏社会ってやつですか。」ルーディンは立ち上がった。「そういうことだ。」彼は側にあったゴミ箱に紙を捨てる。「俺は生まれたときからその中にいたけどな。」ルーディンは大通りとは反対の裏通りに続く細い路地の先を見た。
 タイスが言った。「あんたの肌の色はここじゃ目立つわ。最近黒人への差別もひどくなってるの。動きにくいから、裏通りを行くしかないわね。」ルーディンはタイスを見てうなずく。「“探し人”も裏社会の人間ならなおさら裏通りを行くべき。」タイスはそう言って、残念そうな顔をしてみせる。「まさかあたしがギャングの世界に飛び込もうとは・・・」
 ルーディンは笑ったが、すぐに真顔になる。「本当に来るのか?ここからは本当に危険だぞ。」タイスは丸めた紙を紙コップの中に入れると、ルーディンの側にあるゴミ箱に投げ入れた。「同じこと言わせるな。行くって言ったら行くんだ。」ルーディンはしばらく間があってうなずいた。
 タイスは大きくため息をつく。「神父の孫が裏社会に関わろうなんて・・・破門だわ、こりゃ。」「すまない。」「全然。神様なんて信じてないし。」ルーディンは肩をすくめた。「神父の孫が言うことじゃないぞ。神は必ず救ってくださる。」タイスは鼻で笑った。「俺は少なくともそう信じてここまで来た。」
 ルーディンは暗い道の先をまっすぐな目で見つめる。「自分たちの神様を奪われ、いつの間にか心まで教化されてしまった。俺にもとの宗教に戻ることは出来ない。もう信じられるのはあんたたちの神様だけなんだ。俺はここまで来た。祈りながら。ここまで来た。今も祈ってる。救われるように、俺も、あんたも。」
 タイスは少し黙り込む。「神様を信じるかどうかは本人の自由さ。」ルーディンは少し困ったように微笑んだ。「信じなきゃ救われない。」タイスは少し憎しみをこめてつぶやく。「信じるのはやめたんだ。」ルーディンはタイスを見た。「じゃあ、あんたを救ってくれるのは誰なんだ?」
 この状況からタイスを救ってくれるのは?ルーディンは途方も無い不安にとらわれた。タイスは頭をかいた。そんなのあたしが聞きたい、なんて言えなかった。それはこの人を苦しませるだけだ。
 タイスは暗い路地を歩き始めた。そして、大きく息を吐くと、面倒くさげに言った。「じゃあ、一応祈っとくか。」そして、手を組んで、大げさに天に突き上げる。「あ〜、神様!こんなバカな子羊でも貴方様の寛大な御心でお救いください!」ルーディンは肩をすくめ、タイスのあとに続いた。





.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ