24hours of Vampire

□STORY7―探し物
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―P.M.13:31―

 裏通りは大通りとはかけ離れた空間だった。太陽までこの場所をみすててしまったみたいに光が入ってこない。ビルが邪魔しているせいもあるだろうが、うす暗くじめじめとして陰気だ。土の上なのに雑草すらところどころにしか生えていない。目に付くのは割れたビンや食べ残し、曲がったバットにガラスの破片、血痕。
 道の脇には怪しげな露店が並ぶ。顔をかくした占い師、爬虫類のホルマリン漬けや蜘蛛の標本、しゃれこうべを紫色の電灯が照らす。タイスはあからさまに嫌な顔をして、店主ににらまれた。タイスは慌てて笑顔をつくったが、ひきつっている。
 華やかな音楽と喧騒は高いビルの向こうから聞こえる。まるで隔離された気分だった。先を行くルーディンが振り返ると、なにやらタイスは悪趣味な店の店主と話している。近寄っていくと、別に不穏な雰囲気ではないことにほっとした。
 「おじさん、探しているものがあるんだけど。」「何だい?」がらがら声の中年黒人は前歯が一本抜け、黒いひげは伸び放題でいかついが、ひどい人間ではなさそうだ。
 「小さいナイフとかない?」ルーディンは目を丸くする。「そんなものどうするんだ?」タイスはさらりと言った。「戦うためさ。さすがに素手じゃ難しいからね。」
 店主は箱のようなものの中を探りながら言った。「けんかか?」「んー、そんな感じ。」ルーディンはあきれて首をふった。
 店主は軍隊が使うような大きな銃を取り出した。「こいつなんかどうだ?大人一人の頭なら簡単にぶっ壊せる。」銃はガチャンと大きな音をたてた。タイスは手を振る。「あー、さすがにそれは無理。もっとお手ごろなの頼むよ。持ち運びが簡単なやつがいいんだ。」
 店主はぶつぶつと言いながら(文句ではなさそうだ)、店の奥へ行った。何かを手に持ってタイスのほうへやってきた。「こいつはいいやつだ。」タイスに手渡したのは刃渡り15センチくらいの折りたたみ式ナイフ。柄は赤で、刃は波打っている。タイスは少し興奮したようで、ナイフを見つめた。
 「けんかは素手がポリシーなんだけどね。今回ばっかりは。」タイスはそれを器用に手で回す。
 「おじさん、もう一つ聞きたいことがあるんだけど。」「タダじゃ教えねえぞ。」「これいくら?」「7ドルだ。」「よし、買った。」ルーディンはタイスの態度に感心した。これが本当にあの真面目そうな神父の孫だろうか。




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