小説

□ラプソディを一緒に
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今日は12月31日。
あと数十分後には新年だ。
一般的には28日で仕事納めになり、今は家族や恋人とゆっくりと新年を迎える準備をするのだろう。
しかしここはユニオンの軍基地。
しかも今年はソレスタルビーイングという不穏分子のお陰で全く休日というものが無い。
もちろんそんな軍部に新年を家で迎える余裕などあるはずもなく、たいていが緊急時に備えて仮眠をとっているところだ。
そんな中グラハムは一人、積もりに積もった資料を読みあさっていた。

「なんだね、カタギリ」
グラハムは音もなく入ってきた訪問者をちらりとも見ない。
「随分だね」
侵入者は、苦笑しながらも至極普通にグラハムの座るデスクの前に歩み寄る。
そして手に持っていたカップの一つをグラハムに渡し、自分は隣のイスに腰掛けた。
「ありがとう」
お礼を言ってカップに口を付けたグラハムがその液体を一口飲んで、眉間にシワを寄せる。
「…私は甘い物がそんなに得意ではないと言った筈だが?」
そう、カップの中身はコーヒーではなくココアだったのだ。
「働く時には糖分が必要なんだよ」
そう言いながらどこから出したのか有名なチェーン店紙袋からドーナツを取り出し、口に含む。
そして紙袋をグラハムにも向けたが、グラハムは軽く首を振って遠慮をした。
「それは君の私見だろう」
はぁとグラハムはため息をつく。
全く30代にもなって、深夜に甘い飲み物とドーナツを口にするなど信じられない。
「まあ半々だよ」
そうカタギリが言うや否や外が騒がしくなる。
グラハムが腕時計を確認すれば、長針と短針が12でぴたりと合わさったところだった。
「ああ、年が明けたのか」
「また軍の施設で年明けだ」
色気が無いよねぇとケラケラ笑うカタギリの唇にグラハムが不意に唇を落とす。
「A HAPPY NEW YEAR」
と耳元で囁けば、今度はカタギリから唇を合わせられる。
「今年もよろしく頼むぞ、技術士殿」
「分かってますよ、お姫様」
そう茶化し合い、2人は幸せを噛み締めた。



おまけ
「今年もいい年にしよう、カタギリ」
「断定なのかい?」
「もちろん。運命は自分で切り開くものなのだよ」
星座占いを毎日気にしてる癖にそう豪語するグラハムに笑いつつ、本当にそうなりそうな気がしたカタギリだった。
 

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