穴の中は、やっぱり真っ暗だった。
地面もなく、天も無い。

「………やあ、こんにちは」

目の前には、いつの間に現れたのか、白い男が立っている。
確かに人の形をしているのに、瞬時に人では無いと判別できる。
長い髪も、肌も、猫のような目でさえも真っ白。

「ごめんねぇ」

その白い男は、唐突に謝罪を口にした。
語尾を伸ばした軽い口調が、こちらの神経を微妙に逆なでする。

「ちょーっと、実験に協力して貰いたくて。君達を巻き込んでみたんだ」
「みたんだ、ではないだろうがこの馬鹿!」

と、また唐突に別の声がして、白い男が頭を抱えた。

「……痛い」
「痛くなきゃ殴った意味が無いだろう」

白い男が、怨みがましい視線を向ける先には。
やっぱりいつの間に現れたものか、黒い女がいる。
短い髪も、眇められた瞳も、肌でさえ真っ黒な女。
やはり人の形をしているのに、これもまた、人では無い。

「正解だ」

その思考を読んだように、女が口を開く。

「我等は、お前達とは次元を異にする生き物。本来なら交わることも無い存在。だが……」
「俺の実験に協力して欲しかったから、君達をこの空間にご招待しちゃったんだ☆」

軽く笑う白い男の頭に、黒い女がもう一撃拳を振り下ろした。
悶絶する白い男を放置して、回りに視線を巡らせると、確かにいろんな人がいた。
白い男や黒い女と違い、こちらは間違いなく人間と解る。
性別も年齢も服装も、過ぎる位にばらばらだったけれど。

何故か、懐かしさを掻き立てられる。

「…………君達は特異点だからだよ」

白い男が、悶絶から立ち直って笑う。

「ちなみに仮面〇イダー電〇とは何の関係も無いよ」
「何の話だ」
「こっちの話☆…君達は、定められた物語に一石を投じる存在。流れを変えるために生まれ出たもの。懐かしく感じるのはそのせいさ」

笑う白い男の隣で。
呆れ顔の女が、溜息をついて辺りを見回す。

「おい、空間が持たないぞ。特異点ばっかりこんなに集めたりするから」
「そこは、ハニーの裁量で何とか☆」
「ようしわかった。言い訳は後で聞いてやるから覚悟を決めて遺言を残しておけ」

黒い女の言葉に、青ざめながら。
白い男が、こちらに向き直る。

「……んじゃ、実験を始めるよ?何、君達はなんにもしなくて良い」

そして、白い腕を、こちらに伸ばして。

「ただ、思えば良い。僕が知りたいのは君達の思いの力。……絆の力が、どこまで世界を変えうるのか、だから」


緩やかに。
風が吹き始める。


『………我は我が存在をかけて、所望し、希う』

白い男が、歌うように言葉を紡ぐ。

『我は誕生と隆盛、活性と狂騒を司るもの』

そうして、白い男の指先が。
額に触れたのと、同時に。

意識が、ぼんやりとし始める。


『…………さあ、我が前に示せ。汝の絆を。汝の心を』


白い男は、どこか超然と笑う。



『……汝自身を』






「…………君を形作る、意志を示して見せて?」






成人した女に、「世界を変える程の奇跡を起こす力」が宿る一族の娘




さあ、実験の始まりだ。

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