longStory
□慟哭 9
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静かだ。
アキラは思った。
九度山に入り幸村の屋敷に着いたアキラはこの静けさを警戒した。
一歩足を踏み入れる。
ジャリと音を立てて玉砂利を踏み締める。
庭の中程迄歩いた時、一陣の風が吹き抜けた。
否、風では無い。
今の今迄感じなかった気配がアキラのすぐ後ろで突然姿を現した。
この大気を震わせる程の威圧、息を呑むのも忘れる程の殺気。
こんな存在は一人しか知らない。
あの男しか―――。
「……アキラ、一つだけ答えろ。」
「……なんですか?」
「…俺で、いいんだな……?」
「…………はい。…お願いします…。」
アキラは静かに告げると狂の方に振り向いた。
「手加減しねぇぞ。」
「ええ。してもらっても困ります。」
風が止み、辺りは静けさに飲み込まれた―――。
後書き