longStory
□慟哭 7
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まるで桶をひっくり返した様に激しい雨が降る。
足元は泥濘、雨具も役には立たない。
歩くのでさえ覚束無くなる泥道を上がる泥混じりの水飛沫さえ気にせず歩く足音。
その足音は小さな料理屋の前で止まった。
茶色に染まってしまった裾を片手で上げて戸口の横から裏へと廻る。
雨を含んで重そうに体を傾ける紫陽花達を抜けると、小綺麗に片付けられた裏庭に通じた。
雨が地面に叩き付けられ、白く靄がかかっている。
大音量で耳に入る雨音に眉を顰めて一歩水溜まりに足を入れた。
トプンと水の音が足を伝って耳に届いた。
窪んだ地面に出来た水溜まりに波紋が広がる。
波紋は落ちてくる雨に形を歪めながらしかし水溜まりに沈む物に当たった。
「……梵?………死んでんの?」
水溜まりに半分顔を沈めて横たわっているそれはピクリともしない。
叩き付けられる雨がだらしなく体を滑り落ち、地面に吸われている。
灯は片足を上げて上に向いている肩に足をかける。
そしてそのまま力を入れてごろんと転がした。
上向かされた顔は血の気が無く、口唇は半開きだ。
隻眼は血走って白く剥いている。