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□慟哭 最終章
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振り下ろした刀の切っ先をアキラの喉元に突き付けて時人は言った。

「アキラ。」

抑揚の無い声がアキラの耳を掠めた。

幻聴では無くはっきりと聞こえたその声にアキラは沈みかけていた意識を再び浮かび上がらせた。

気配を探る迄も無く分かる声の主を間近に感知したアキラの身体からまたあの蒼い炎が爆発する様に膨れ上がった。


炎の熱が容赦無くアキラの脳髄を焼き焦がす。
熱さにのたうちまわる脳髄から聴こえた声は抑えられない慟哭だった。


熱い助けて奪え壊せ嫌だ狂え焦げろ離せ犯せ逃がすな


自分の悲鳴と狂気がアキラの中を這い廻る。


アキラがゆらりと立ち上がった。


時人の目の前にゆっくり立ちはだかったアキラはまだ顔を上げていない。
時人はもう一度口を開いた。

「…アキラ……?」

ピクリと肩を震わせてアキラはゆっくり顔を上げた。

そして顔を上げきった瞬間、時人の周りの空気が凍り付いた。

凄絶な微笑を湛えた顔はより凄味を増して、凶暴な欲動は更に加速して、アキラを包み込む。

ゆらゆら立ち込める蒼く蠢く炎はアキラを呑み込み侵食する。

そして――……



「……貴女に捧げますよ、………この、慟哭を。」


その声は地の底よりも低く、氷よりも冷たく、絶望よりも、哀しかった。


瞬き一つせず、アキラを見ていた時人は哀しく微笑んで頷いた。


息を大きく吸い込みながら眼を閉じた。



覚悟は、出来た。



眼をゆっくり開いて息を吐く。



その顔にはもう微笑みは消えていた。


勝ち気な翡翠の瞳をアキラに向ける。



「……ボクの全てを懸けて、アキラ、お前を倒すよ。」


「……承けて立ちましょう。」



二人は同時に地を蹴った。







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