longStory

□慟哭 7
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灯は片膝を雨も気にせず地面に着けて右の顎の下にそっと手を触れた。

暫く眼を閉じていたがおもむろに眼を開いて一言、声を発した。





「お手。」
「ワン!」

灯の手のひらに勢いよく手を乗せてはたと気付く。

「……お?灯じゃねぇか。何やってんだ。っていつの間に雨降ってんだ?」

大量に雨を含んだ着物の重さと目の前にいる人物に驚きながら梵天丸は灯に問い掛ける。
問い掛けられた灯は答えず、周りに目を向けた。

外れて地面に落ちた雨戸、薙ぎ倒された梅の木、踏み潰され泥水に浸かった紫陽花。

「……相当派手に暴れたんだね、ゆやちゃんが見たらなんて言うか……」

そう言いながら水溜まりを避けながら雨戸のない縁側に上がる。
長く降り続く雨で縁側はおろか畳にまで雨が染み込んでいる。

灯は部屋の中に入り、箪笥の中から適当な着物と手拭いを出して座った。

「まずはあんたの治療だよ。さっさと上がって来な。」






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