longStory

□慟哭 9
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「狂さんはアキラさんを…倒すよ?」
「!!」
「止める為に…いや、助ける為、かな?」
「……助ける……?」
「うん、アキラさんを助ける為。」
「……アキラ、を?」コクりと軽く頷いて幸村は立ち上がった。
そのままゆっくり窓に近付いて外に視線を遣る。
時人は幸村の何処か優美なその姿を瞳だけで追っていた。
「……彼が怖い?」
「…………え……?」
「壊れてしまった彼が、怖い?」

窓からは穏やかな風が入り、幸村の黒髪を靡かせている。

相変わらず視線は窓の外に向けたまま、幸村は時人に問うた。

怖い?
いや、怖くは、ない。
では何故?
何故アキラから逃げた?
体を求めるから?

確かにそれもある。

けれど一番見たくなかったのは


アキラが自分に狂っていく姿だった。

(……そうか……)

だから逃げたのだ。


自分を負かせた男がよりによって自分に溺れて狂っていく様を直視出来なかった。

だから鬼に頼んだのだ。

見たくなかったから。

追い続けた背中が刀ではなく恋情に負けて壊れていくのを見たくなかったから。
「時人さん、君でなきゃ、彼を救えない。」
幸村は窓から時人に視線を移して、見つめた。

「本当の意味で救えるのは、君だけだよ。」
時人ははっとして幸村を見た。

幸村は静かに、しかし強い光を湛えた瞳を向けていた。

時人はその視線を反らすことなく、はっきりと伝えた。


「…分かった。もう、逃げない。」


本来の勝ち気な瞳で告げるその言葉を艶やかな笑顔で受け止めた幸村はコクリと頷いた。



アキラが苦しいなら。
アキラが僕と言う熱に魘されているならば。

僕がアキラを……。








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