小 説 2

□時を越えて 1
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ーーーー時は江戸。

ある武士と忍者が広い野原で対決しようとしていた。
お互い刀を抜き出し、相手に向けて威嚇する。


「今度こそ覚悟しろ!竜助ッ」


武士のほうは椿 剣之介といい、ある殿様の
もとで護衛として、活躍している凄腕の持ち主である。

忍者のほうは藤崎 竜助といい、この時代で
有名な盗っ人団の長である。


天敵の剣之介に追われていた竜助は、今まで
散々逃げ回っていたのだが、とうとう遂に
追い詰められてしまい、対決するしかないと
いう状況になっていたのだった。


「チッ、しつけぇ野郎だぜ。いつもいつも犬みてーに
 追いかけまくりやがってよ」

「戯言を言うな!貴様の悪事はとうに知れ渡っている。
 殿様から、生け捕りしろとのご命令があってな」


剣之介は、竜助をギッ!と睨みつけ、
静かに刀を構える。

その構えからは、ただならぬ気迫に満ちており、
竜助の額に冷や汗がツウッ、と一滴流れる。



「・・・チッ、こいつぁただじゃ済まねえようだな」


相手と同時に竜助も刀を構え、一撃を狙う。


両者の間に静かな間があったその直後、
お互いは勢いよく相手目掛けて突進した。


「うおおおおおおッ!!!!」
「てやぁぁぁぁぁッ!!!!」



ガキィィン!!!!

激しい刀同士のぶつかる音が空に響き渡った。



「くっ・・・!!竜助、思ったよりなかなかやるな」

「ヘッ、てめェもやんじゃねーか!血が騒ぐぜ」



どちらも一歩引かず、ギリギリと刀を
ぶつけ合いながら睨み合う。

すると、剣之介が竜助の腹にキックを入れ、
不意をつかれてよろめいた竜助の顔目掛けて、
刀を振るった。



ピシッ!!

空中に紅い鮮血が飛び散り、竜助は頬を
手の平で押さえる。


「ーーーーっつ、いてぇな・・・!」


間一髪、剣之介の刀をかわした竜助だったが、
頬に約10センチほどの傷を負ってしまった。
ツゥゥッ・・・と真っ赤な血が流れる。



「どうした、もうそこまでか?
 あとは大人しく捕まるんだな!」


ずい、とよろめく竜助に近寄る剣之介。
袖から縄を取り出し、竜助を縛ろうと
した瞬間ーーーー


ドン!!!!

「うわっ!!」

「ハッ!このままやられてたまっかよ!」


竜助は、剣之介に体当たりを食らわし
そのまま野原を抜けて逃げて行った。


「ま、待てッ!!逃すものか!」


慌てて立ち上がり、剣之介は竜助を
追いかけていく。










時を越えて












一方、竜助は、対決した場所から
少し離れた所の大きな池がある土地に逃げて来たのだった。


「ハァッハァッ、ここまで来れば
 見つからねーだろ。」



苦しそうに息をしながら竜助は、ヘタヘタ・・・と
地面の上に座り込んでしまった。

血で濡れた頬をそっと手の平で摩ってみると、
真っ赤な血がついた。
おまけにズキンズキン、と痛みが走る。



「あンの野郎・・・本気で俺の腹蹴りやがったし
 頬まで傷をつけるとはな」


今まで剣之介の力を侮っていたが、
なかなかの腕前のようだ。
あの時の、獣のようなギラリとした目が
頭から離れない。


今まで逃げ回っていたのだが、もう
もはや今度は助かる確率が低いだろう。


フッ、と竜助は己の運命が哀れに思えて、
一人で嘲笑った。


結構走って来たので、竜助はのどの渇きを感じ、
目の前にある大きな池の水を飲もうと池に近寄る。


水面が風に揺られ、ゆるゆると小さな波が走った。

そっと、竜助は両手を水面に触れて
水を掬い上げようとした。




ーーすると、池の水がピカッ!と光り、
竜助は思わず目をつむった。

慌てて空を見上げてみると、月がらんらん
光っており、多分光が反射したのだろうと、
竜助はため息をつく。



「ーーーそいやぁ今夜は満月か・・・」



昔から満月の夜は、不思議なことがよく
起きる、と言われてるそうだ。

じっ・・・と見上げると何だか自分が自分でない
気がして、竜助は思わず目を逸らしてしまう。

まぁあんなのはただの伝説だろう・・・と思い竜助は、
のどの渇きを潤すために再び、目の前の池を飲もうと屈んだ。





「・・・ん?」



竜助は目の前にある池の異変に気がつき、
水を掬おうとした手を止める。

水に映る何かが見えたのだ。



「な、なんだこりゃ!俺・・・だよな?」



何度も目を擦ってみるが、水面に
映るものはーーーー竜助の顔、のはずだが。

どうにもおかしい。



真っ赤な角が生えた被りものを頭に着けており、
奇妙な光る二つのまぁるいものが
被りものにくっついていた。


よくよく見てみると、顔が自分そっくりなのだ!

自分と同じように、ジッとこちらを伺うように
見つめてくる。



服装とかも、着物とかではなく・・・
薄くて珍しいものだった。
何故か、自分そっくりなその人間に
惹かれ、竜助は思わずーーー顔を水面に近付けていった。




その時、竜助の後ろで足音と共に
荒い息遣いが聞こえてくる。


「ぜぇぜぇ・・・・・あっ!!!!見つけたぞ竜助!!」


ぜえぜえ、と苦しそうに息を切らした剣之介が現れた。



「ようやく捕まえられるぞ!観念しーーーー」


勢いよく縄を竜助に向けた瞬間。



ドボンッ!!!!




突然、竜助が池の中に真っ逆さまに落ち、
ブクブク・・・・・と泡を立てながら沈んでいった。



「り、竜助ッ!!??」


あまりの出来事に剣之介は慌てて、
池の中を覗き込んだ。

さっきまでは大きくぶくぶく、と音を立てていた泡も
だんだんやがて・・・小さくなり、遂には音すら
しなくなってきた。



「ま、まさか!自殺でもーー」


このままでは、生け捕りすることが出来ない。
剣之介は慌てて池の中に飛び込み、竜助を
手探りで捜そうとした。


しかしーーーーどこにもいない!

真っ青になりながら剣之介は必死で
池の深いところまで潜り込む。



池の中は少し濁っていて、視界は良くなかった
のだがーー・・・・・




どこまでもどこまでも泳いでも、なかなか底に着かない。
結構深く、まるで底無し沼のようだと剣之介は思った。


しばらく泳ぎ続けていた途端、 大きな
ゴゴゴォォォォォォ!!!!という音と共に
自分の身体が吸い込まれるような感じがして、
危機を感じた剣之介は慌てて水上に出ようともがく。



ーーしかし、あまりにも吸い込む力が強い為、
剣之介は泳ぐに泳げず、深く深く池の中に
吸い込まれていったーー。






そこで剣之介の意識は途絶えてしまうのだった。














−−−−−−あとがき−−−−−−−−−

初パラレル!
舞台は江戸時代で、武士である椿と忍者である藤崎が
メインなのですが・・・二人の下の名前は自分で考えました←
何となく似合いそうなものをしばらく
あれこれ考えまくった結果、コレでした。


時を越えて(タイムストリップ?)
は一回やってみたかったネタなんですよね。
さて、ここから大変なことになります!




 

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