小 説 2
□時を越えて 2
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ーーーーふかい、ふかい、真っ暗な闇が広がる水の中。
(どこだ、竜助・・・)
剣之介は朧げな意識の中で、消えてしまった竜助の幻を見ていた。
こちらを見ているが、何も喋らない。
ただじっと見つめてくるだけ。
手を伸ばそうとしても、遠くにいて捕まえられない。
向こうにいる竜助は、何かを訴えるかのように
冷たい視線をこちらに向ける。
剣之介は、何故かその眼がひどく悲しそう・・・に見えた。
幻の竜助は口をうっすら開き、そっと呟いた。
『剣之介』
すると、竜助の姿が泡となってパチパチと弾けて消えてしまった。
(また行ってしまうのか・・・)
伸ばした手も、やがてダラン、と力無く下ろされ
剣之介の朧げな意識は闇の中に閉ざされてしまった。
・・・・・・・・・・・・・・・
ーーーーーそして時は流れ、現代。
ジリジリ、と眩しい太陽が輝く夏のある日のこと・・・
−開盟高校にて−
「ボーーーーッスゥゥゥーーーン!!!待たんかいっコラ!!
何で逃げんねんや!!」
「嫌だよ!!!!ペロキャンの賞品とかどうでもいいわーー!!」
学校の廊下をドタバタ走り回る男女が二人。
通り過ぎるたびに、周りにいた生徒から「また何かやらかしたのかー」
という声がかかる。
「ペロキャンの賞品ナメんな!!!今度はもっとすごぉいモンやで!!
協力してくれんと困るねんーーーーーッ!!」
「やだよ!!オレを殺す気かぁぁぁぁ!!」
ヒメコの味覚オンチーー!!と叫ぶ少年は、藤崎祐助。
ゴーグルのついた赤い角帽子がトレードマークであり、
この学校では珍しい、「助っ人」を部活動とする『スケット団』の部長。
ペロキャンという珍味飴を手にしながら、藤崎をすごい形相で追いかける
少女は、藤崎と同じくスケット団の副部長、鬼塚一愛(ひめ)。
かつて『鬼姫』と呼ばれた元ヤンキーでもある。
「頼むから今日は勘弁して!?なっ、オレ死んじゃうよ!??」
「死なないわぁボケェ!!ペロキャンのために食え!!」
それでも必死にちょこまかと逃げ回る藤崎に、ヒメコはとうとう
奥の手として愛用の戦闘用武器・薫風丸(ホッケーステッキ)を
手にし、藤崎の首目掛けてブン!!と振りかざす。
薫風丸が首に引っ掛かり、後ろに強く引っ張られた藤崎は、
ぐぇっ!とカエルが潰れたような声を出して盛大な音を立てて倒れてしまった。
「ボッスン!!スマン、これしか方法がなかったねん。
さあ・・・コレ食えーー!!!! 明太子味やぞ!!」
「げぼっ・・・!!い、い、いらねぇっ!!」
慌てて首を横にブンブン振って否定する藤崎だったが、ヒメコによって
ガッチリと顎を固定され、明太子味の激マズ飴を無理矢理口の中に放り込まれてしまった。
するとみるみる顔が真っ青になり、口を手で覆って藤崎は
「まーーーーずぅぅぅぅうーーーー!!!!!」
と、倒れてしまった。
一方、包み紙をチラッと見たヒメコは舌打ちをし、その包み紙を
スカートのポケットの中に乱暴にしまい込んだ。
「チッ、ハズレやったわぁ!!ってボッスン大丈夫かいな??;」
「おぼろろろろろっ・・・うげぇ死ぬぅぅぅぅ」
「スマンスマン、ホンマごめんなぁ。その明太子味、どうしても舐めたかったんやけどなアタシ。」
「知るかーーー!!!!ヒメコのバーカバーカバーカバーカ!!!」
うえーーんと泣き出した藤崎にヒメコは慌ててよしよし、と頭を撫でた。
「ソレしっかり最後まで食わんと。ねっ、ボッスン」
「ねっ、じゃねぇよ!!!;あーくそ、マジ吐きそう!生臭いし!!」
ちくしょー、と藤崎は毒を吐きながらゆっくり立ち上がり、
アメをがちり!とかみ砕いた。
「あ、ヒメコちゃん!!ボッスン!!」
突然降ってきた声に二人は振り向くと、廊下の向こうから
一人の女の子がたたたっ、とこちらに向かって走ってきた。
「お、キャプテン!どないしたんや、そんな急いで」
「うん、ちょっとね・・・ってボッスン、大丈夫??なんか顔色悪いわ」
「あーナンデモナイデス・・・」
「そう?ならいいけど・・・;さっきね、部室にいたんだけど、
スイッチ君が二人を呼んで欲しいって。なんか依頼のメールが来たとか」
女の子の言葉に二人はええ!?と素っ頓狂な声を出して驚く。
「依頼!??マジで久しぶりなんだけど!急いで行かねぇとな」
「せや、はよう行かんとな!キャプテンありがと!」
「いえいえ。仕事、頑張ってね!!」
じゃあね!と手を振って挨拶をすると、藤崎らは急いで
部室を目指して走って行った。