小 説 2

□時を越えて 3
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池から現れた謎の人物を藤崎らは保健室まで運び、
保健の先生にベッドを一つ借りるとそこにゆっくり運んで寝かした。

鬼塚と笛吹は、他の人に見られないように、ベッドの周りを囲む
カーテンを素早く閉めこちらの様子が完全に見えないようにする。


改めて藤崎は謎の人物を見てみると、規則正しい呼吸をしているが
瞼はかたく閉ざされたままだった




「はー何なんだコイツ、どー見ても椿だけど・・・びっくりしたな、いきなり池から現れたし」

「せやなぁ、最初は幽霊やと思たけどホンマに生きた人間なんやな。」


横たわってるその人物をマジマジと見つめる藤崎と鬼塚。



『服装がどう見ても古いな。よくよく見てみると江戸時代ものだと思えるが』

カタカタ、とソフトで喋る笛吹。それに藤崎はそういえばそうだな、とうんうん頷きながら相槌を打った。




「なんつーか、やっぱ服装が振蔵に似てるよなぁコイツ。あいつの父ちゃんみてーに
  時代劇役者でも目指してんのかよ?」


『命頂戴する!って言って刀でスバッと斬りかかって来そうだなww』


「あはははは!なんだそら、拳で殴り掛かってくるよりもっと怖ぇぇなーーー
  てか何で池ん中にいたんだろう?」


『足滑らせて池の中に落ちて気絶してたんじゃないか??』


アハハハハ、と脳天気に笑いあう藤崎と笛吹。
後ろでヒメコがちょっと待て!と声をかけてきた。



「コイツよぉ見てみい!なんか呟いとるで」



ヒメコの言葉に藤崎と笛吹は慌てて横たわってる人物のほうを見た。
すると、言われた通りその人物は何やらゴニョゴニョと口を僅かに
動かしている。
何かを喋ろうとしているようだ


何を言っているのか分からず、藤崎はそっと口元に耳を近づけてみた。





「・・・て、ーーーーー・・・すけ」




「てすけ?」
藤崎はハァ?という間抜けな顔になり、詳しく聞き取ろうと
もっと更に耳を近づけてみた。



「ーーーーすけ、待て・・・りゅう、・・・すけ」


今度はハッキリと聞き取れた。
鬼塚らのほうを見て「待て、りゅうすけ」だって!と言った。

りゅうすけって誰だろう?と全員がそう思い、再び
その人物に視線を戻した。










ーーーーーーーー・・・・・・・・





真っ暗な闇の中、剣之介は意識がだんだん戻ってくるのを感じていた。

さっきまで冷たく感じていた身体も何故か温かく、まるで
布団の中にいるようだとふと頭のどこかで思った

動かなかった身体も、少し力を入れてみると指がピクリ、と
僅かに動いた。



(そういえば、自分は池の中に落ちて、そのまま沈んだんだったな・・・)


もしかして死んでしまったのだろうか?
そうとなると、同じように池に落ちた竜助も死んでしまったのだろうか?



捕まえられなかったまま死んでしまうなんて、惜しい事を
してしまったと剣之介は下唇をギリッと噛み締める。

盗っ人という大罪を犯した竜助を捕らえて、殿様に
引き渡すことが任務だったのに・・・



でも、仕方がないことだろう・・・と剣之介は深くため息をつく







『見てみろよ、こいつ!寝たままため息ついてやがんの』




ーー突然頭の中に降ってきた声。


それになんだ!?と剣之介は真っ暗な闇の中をキョロキョロ見回した
しかし、どこにも人物はおらずただ頭の中にいろんな声が混じって
響いてくる。

ますます得体の知れない声に不安感がこみあがってきて
頭の中で「誰なんだ?」とそっと呟いてみた。







『ーーーー誰ってお前・・・俺だよふ・じ・さ・き!!
 いつまで寝てんだ下マツゲ野郎』



ーーー『ふじさき』という声に剣之介はハッとする。

あいつ生きていたのか!?と強く心の中で思った



すると、みるみる真っ暗な闇がまばゆい光に覆われ、
一気に真っ白な空間へと変わってゆく。


剣之介は力を振り絞って、腹の底から大きな大きな声で
追いかけていた相手の名を思い切り叫んだーーーーーーー







「竜助ッッ!!!!!」






ガバッッッ!!!!


さっきまで横たわっていた人物が突然起き上がり、
ぼうっと眺めていた藤崎らはびっくりし「ギャーーーーッ!!!」と
大きな叫び声をあげた。

目を大きく見開き、ただ微動すらせず前をジッと見つめる彼に、
藤崎は口をパクパクと金魚のように声を出さず開けたり閉めたり
していた。

すると、彼はゆっくりと口を動かし「ここは・・・・どこだ?」と言葉を発した



『保健室だ』



笛吹が発した言葉に首を素早く動かし、藤崎らの方を見た。
すると、驚いたかのように更にカッ!と大きく目を見開く



「りっ竜助!!」


いきなり近距離で叫ばれた藤崎はビクッと身を震わす。
何事かと思ったら、突然肩をガッシリ!!と掴まれた。

「なっなななな、なんだ!???」



慌てて掴まれた手を離そうとするが、強く掴まれているうえに
般若のような恐ろしい睨み顔で睨まれてしまい藤崎は恐怖で真っ青になる。



「貴様ァ!!生きておったか!!探したんだぞ!」

「・・・ハァ!?;」





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