小 説

□背中越しに
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この僕・・・椿佐介は、ある人間がずっと
気になってしようがない。

いつもばったり会っては、いがみ合い、
大嫌いな天敵だった・・・はずのアイツ。
赤い帽子が目立つ、スケット団のーーーー

『藤崎』という男が。


何故かは分からないが、気が付いたら
目で追ってしまうし、藤崎のことをちょっと
考えるだけで心臓がバクバクうるさくなる。


特に、あいつの・・・背中を見てると。



この気持ちは自分でもよく分からない。
ある、出来事から僕はおかしくなってしまった。







始まりは、今から二週間前のことーーー









背中越しに









「椿ちゃん、どうしたの? 何だか疲れ気味だね」


ある日の午後。生徒会室で僕は、
提出しなければならない書類をまとめていた。

本当は会長がやらなければならないはずだが、
何処かに逃亡してしまったということで・・・
仕方ないので、代わりに僕がやっていた。


この頃、書類以外にやることがいっぱい
あったのでなかなか眠れず、疲れもたまっていた。

何度も目をこする僕に、心配そうに榛葉先輩が
声をかけてきた。


「大丈夫ですよ。ちょっと眠たいだけです」

「ん?そうなの?・・・でも何だか顔色悪そうだよ?」


心配そうに僕の顔色を伺う榛葉先輩に、
ホントに大丈夫です!と強く言う。


「椿ちゃん、無理しなくていいからね?
  元とはいえ安形が逃亡したせいだからなぁ・・・
 何かあったらオレらに言ってちょうだい?」


その言葉にコクン、と僕は頷いた。

「あっやば!オレ、ちょっと用事あったんだ!
 椿ちゃんごめん、先抜けるね!」



じゃあ、と手を挙げて榛葉先輩は、部屋から
出て行ってしまった。


部屋の中に一人残された僕は、気を取り直して
仕事の続きに取り掛かる。

しかし、欠伸が何度も出てくるようになった。
心なしか、だんだん頭がボンヤリしてきた気がする・・・。


目の前にある書類も、何だかぼやけて見えてきた。

このままでは流石にヤバいな・・・と思った僕は、
顔でも洗ってこよう、と椅子から立ち上がり部屋を出た。



生徒会室から少し離れたところに階段があり、
そこを下りていくとトイレがすぐそこにあるので
僕は、そこを目指して歩いていく。


すると、傍から何やらうるさい音がしてきたので
何かと思い振り向いてみたら、遠く離れたところに
三人くらいの生徒がぎゃぁぎゃぁ騒いでいるのが
見えた。

注意しようと思ったが、頭がボンヤリしてて
上手く働かないのでとりあえず今回だけは、
無視しておいてやる。

一瞬、赤い帽子がチラッと見えたのは
気のせいだろう。






階段に到着し、僕はゆっくりと足を前へ出した。

さっきからずっと疲れのせいで階段もボンヤリ
見えてしまうので、ゆっくりと慎重に一歩一歩下りる。


・・・すると、


ズルッ!


下りる途中のところで階段を踏み外してしまい、
僕の視界が真っ逆さまになった。



(ーーああ、ダメだ、落ちる・・・)




地面も間近に見えて、ーーーぶつかる。と
思ったその時。




「ーーー危ねえッ!!!!」



不意に、誰かの声がした。

それと同時に、ドスン!!と地面に衝突する
大きな音が耳に入る。


ああ、僕落ちちゃったんだな、と
ぼんやり思った。
その時、僕は自分の身体に痛みがないことに
気づきハッとして目を見開いた。



すると、目の前にはーーーーーーー




赤い角帽子。




「いってェェ〜〜・・・!背中打ったあぁ!」


目の前の人物は、痛そうに頭と背中を
摩りながら床の上で仰向けになっていた。


(え?僕、階段を踏み外してーー落ちて、
 床に衝突したんじゃ・・・)


突然の出来事に上手く頭がついていけず、
あれこれぐるぐる考えていると、目の前の人物が
おもむろに僕の顔色を伺うように顔を近づけてきた。



「おーい!大丈夫か、下マツゲ」


その聞き慣れた声に、僕はカッと目を見開く。
・・・まさか。




「ってーーふふふふ、藤崎ッ!!??」

「うわ!うるせっ!近距離で叫ぶなっつーの!」


何故あの藤崎が?・・・よくよく見てみると、
何と僕が藤崎の上に馬乗りになっているではないか!

どうやら、藤崎が僕を庇って
下敷きになっていたようだ。

何だか恥ずかしくなり、僕は慌てて
藤崎からそっと降りる。



「は〜助かって良かったぜ。
 お前何だかフラフラしていたもんな」

「え、僕が・・・フラフラしていた?」

「あぁ、向こうでヒメコとスイッチと遊んで
 いたんだけど、そん時にお前が階段下りようと
 しているのが見えてさ」



あ。もしかして、さっき遠くで
騒いでた生徒たちってお前らだったのか!

はぁーとため息をつきながら、僕は
こめかみに手を置く。



「おい、椿」

「・・・・・なんだ?」

「怪我とかないか?マジで大丈夫?」


心配そうに僕の顔を覗き込む藤崎。
何故かドキリ、と胸が高鳴った。


慌てふるふる、と横に顔を振る僕に
藤崎はそっか、と安心したかのように笑顔を
見せた。



「あ、でもフラフラしていたのって
 何かあった?」

「・・・別に、何も」

「んーでも何か顔色わりーぜ、お前?」


そう言って、藤崎が僕の頬に手をそっと
添えてくる。


藤崎の少し冷たい手がヒンヤリとしてて
心地良かった。
それと同時に、身体の熱がふつふつと
沸騰するように沸き上がってくる。


「あ、お前やっぱ熱っぽいじゃん!
 もしかしてまともに寝ていなかったんだろ?」


生徒会って忙しそうだしな、と
藤崎は続けて話す。

そうすると、急に立ち上がったかと思ったら、
いきなり屈んだ。

しかも手を腰のほうに回しているので、
このポーズは・・・・・もしかして。


おんぶ、というヤツだろうか?



「ほらよ!椿、早く乗れ」

「・・・はっ?」

「いーーから!さっさと乗っちまえ!
 おめーまた倒れたらヤベェだろうから
 保健室まで連れてってやるぜ」



ほら!と何度も催促してくる藤崎。
天敵である藤崎におんぶなんて・・・
嫌だ、と思ってたハズなのだが。

頭が上手く働かないせいで身体も
動きづらいので・・・今回だけは、素直に
藤崎に従うことにした。



藤崎の背中に乗り、首に腕を回すと、
軽々と藤崎は立ち上がった。

一体こいつの何処にこんな力が!と
最初は思っていたのだが。

・・・・・まぁいい。






ゆらゆら、とリズム良く揺れる大きな背中。

藤崎は何も言わず、黙ったまま僕を背負いながら
保健室までの道のりを歩く。

とてもあったかいその温度に僕は、
うつら、うつら、と眠くなり、藤崎の
シャツをギュッと握った。


そういえば、助けてくれたお礼、
まだ言ってなかったな・・・と考えていたら。




「あんま・・・無理はするなよ?
 心配、するからさ」



いつもと違って優しい藤崎の声に、僕は
ドキリ、と脈打つ。

いつもは喧嘩ばかりしていた。
憎まれ口ばかり叩いていたし、大嫌い
だったのに。

何故、こんなにもあったかいのだろう。




「藤崎」

「ん、何だ?」


「・・・・・助けてくれて、ありがとう」








ーーあれから覚えてない。

藤崎の驚いたような顔と、背中の温度だけが
記憶に残っている。


保健室の先生に聞いてみたら、どうやら僕は
気を失ったかのようにグッスリ眠ってたという。

目覚めたら、藤崎はもう既にいなく
外を見てみたら夕方になっていた。


真っ赤な空が、何だか藤崎の帽子みたいに見えてきて、
僕はため息をそっとつく。



ーーーーー二週間経った今でも、僕は藤崎の
あの大きな背中のことを時々思い出すんだ・・・。










−−−−−−あとがき−−−−−−

藤崎←椿?
藤崎のことが気になりはじめるきっかけ
といった感じ。

というか藤崎が優しすぎる!笑
この感じだと、藤崎→←椿ぽいですよね・・・;
小説作りに慣れないとだぁぁ(;´∀`)




 

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