小 説 2

□時を越えて 2
2ページ/3ページ





ガラララ・・・


部室の扉を開けると、パソコンとにらめっこしている一人の少年の姿が
視界に入った。


「おーいスイッチ!!キャプテンから伝言聞いたぜ。依頼入ったってな??」

『ああ、急がせてすまない』


パソコンを使った音声合成ソフトで会話する少年は、笛吹和義という。
彼もスケット団の一員であり、スイッチと呼ばれている。
何故か口では喋れないらしく、ソフトを使って話すのが彼の特徴である。





『それがこれだ。』


スイッチがパソコン画面に指をさすと、藤崎とヒメコは何々??と画面を覗き込む。
そこには一件のメールがあり、こう書かれていた。






ーースケット団の皆さんへ。

こんにちは。

突然の依頼で悪いですが、次の日の放課後に学校の裏にある
池の掃除をしてもらえないでしょうか?
前に鯉を飼っていたことは知っていると思いますが、実は、また再び飼うことになりました。
そこでスケット団の皆さんに、是非ともお願いしたいと思ったのです

苔とかこびりついていると思うので、綺麗にして欲しいです。


「却下デース☆」とは言わず!どうかよろしくお願いします。


校長





内容を読み終えた藤崎らは、はぁーとため息をついた。
久しぶりの依頼でテンションがあがったのだが、先生方からの依頼だということで一気にやる気が下がってしまった。

しかも、よりによって校長。



「なんだよぉーーー!!久しぶりの依頼かと思ったら校長からじゃん!!
 孫の世話の次は池の掃除!?てか却下デース☆ってふざけてんのか・・・・・」

「でも断る事はできひぃんやろ、校長やし。それにせっかく来た久々の依頼やもん」

『でもそのかわり部費はアップしてもらえるんだそうだ。こちらから交渉してみたら快くOKを頂いた』

「ええっマ、マジで!!??」

『大マジだにょん(*´∀`*)b{ヤッタネ!!』



それならやってみるのもいいかも・・・!と藤崎は一人でガッツポーズをとる。
すると、『ボッスン!』と笛吹が声をかけてきた。


『そう簡単なものじゃないと思う。何故なら、あの池は長年洗っておらず
 かなり汚い状態なのだから。相当の力仕事になるぞ』

「うげぇまじかよ・・・;長年洗ってないんなら、何か変なものでも浮かんでくんじゃねーのか??」


何かを想像したのか、ゲェ〜と渋い顔をする藤崎。



「あ、そしたら掃除道具揃えておかなアカンな。」

『そうだな、倉庫にあると思うから明日準備しとこう』





そうして依頼を引き受けることになったスケット団であった。










ー次の日−



放課後、藤崎らは体操服に着替え、掃除道具を手にして
池のある場所に集まった。
そこには校長もいて、掃除のことについて説明をしていた



「この池には苔がいっぱいこびりついてるんで、各自が持っている
 タワシでしっかり洗い落として欲しい。
 終わったら、そばにある吸引機で水面に浮かんだ苔を吸い取ること。
 以上、分かったかね??」


説明が終わると、藤崎らはハーーーイと言った。


「では、これから私は出掛けてくるよ。綺麗になるのを楽しみにしてる」


わっはははは、と甲高い笑い方で校長はさっさと去ってしまった。
残された藤崎らは全員大きなため息をつく。
あの校長相手だと、めんどくさいものばかりだな・・・と思った。





「何やねん、結局めんどいだけやんあのオッサン。」

「だなぁー孫ん時もえらく苦労したってのに。わっははは、なんて
 あれが人に頼む態度かよ;」

『気にしない!!部費アップのためだヨ☆』




まぁ引き受けたことだしやるしかないな!!と、藤崎がそう言うと
オオオーーー!!と掛け声をあげる鬼塚と笛吹。


早速、藤崎が先に池の中に入り、周りに危険物がないかどうか確かめる。
底がゴムで出来た靴を履いているので、万が一ガラスがあった場合
それを踏んでしまっても大丈夫だ。


「ヒメコ、スイッチ、どうやら大丈夫みたいだ!!ガラスとか危ないもんは
 全然ないっぽいぜ」

「よっしゃ、入るでー!そっとなそっとな」

「あ、底も苔でビッシリだから気をつけろよー!滑るから」


藤崎の手を掴みながら、そっとゆっくり池の中に足を踏み入れる鬼塚。
続いて笛吹が池の中に入る。


「うっわぁ!めっちゃツルツルやん!!こりゃ危ないわ!」

「しかも池全体すげー緑じゃねーか。ナニ、こんなんなるまで
 ほっといたってことかよ!」


三人とも、足場の悪さに嫌そうな顔そする。
どこを見渡しても全てグリーンだ。長年洗われていないことが
よく分かる気持ち悪い色。

ツルツルで滑りそうになりながらも、藤崎らは懸命に
タワシでゴシゴシ、と磨き始めた。

すると水面に剥がれた苔がぷかぁっと浮かぶ



「うえー!気持ち悪りぃ〜〜ヌルヌルしてるぞコレ」


浮かんだ苔を手に取りながら、藤崎は嫌そうな顔をした。
鬼塚も笛吹も同じ顔をしている










しばらく、三人は懸命に磨きつづけたが苔の多さに体力がついていけず
やがて疲れが出始める。

そのうえ真夏でもあり、太陽がギラギラと輝いているので
汗もいっぱいかいてしまう。シャツがベタついててかなり気分が悪い。
何度も腕で汗を拭き取るが、ダラダラ・・・と次々と出てくる


「ううーー・・・あっちいなァ。夏だし、しかたないけどさ」

「ーーあかん、ボッスン・・・アタシなんか頭痛いわ」

『俺もだ』


藤崎のそばにいた、鬼塚と笛吹が突然体調不良を訴えてきた。
それに藤崎は「もしかして熱中症か?」と二人の顔色を伺う。
顔は赤っぽく、ぜえぜえ、と苦しそうに息をする二人にやはりな・・・と
ため息をつく藤崎。


「よし、お前らは池から上がって陰で休憩してこい。」

「え、アンタは?」

「俺は帽子被ってるからな、まだ大丈夫だ。あんま無理すんなよ」


藤崎の言葉に分かった、と答えた鬼塚と笛吹は先に池から出て
近くにあった木の陰に隠れて地面に座った。

一人残った藤崎は、再び作業を続ける。









ーーーその時。







ズゴゴオオオオオオオオオオオオン!!!!





大きな響きと共に、地面を大きな揺れが襲う。
それにびっくりした藤崎らは「地震だ!!」と叫んだ

鬼塚と笛吹は慌てて木から離れ、安全そうな場所に移動するが
慌てて池から出ようとした藤崎は池の底にこびりついた苔で
ズルッ!!と勢いよく足を滑らせてしまった。



「あっボッスン!!ーーーあかん、大丈夫か!?」


立ち上がろうとするも、苔で足が滑ってしまいうまく起き上がれず
池の中で溺れる藤崎に慌てて、鬼塚が池に近寄る。

まだ揺れがおさまらない中、助けに来た鬼塚に来るな!と藤崎が叫ぶ。


「がぶっ・・・こっち、くんな!危ないから・・・スイ、ッチといろ!」

「何言うんてんねん!!アンタ溺れとるやんか!今そっち行くで」


頑として藤崎の言うことを無視し、鬼塚は池の中に入ろうと
足を水面に近づける。




ーーすると、嘘のように地震がピタッとおさまった。

溺れていた藤崎も、何とか落ち着きを取り戻し、池を囲む岩に
しがみついた。




「・・・やっと、おさまったな地震。はぁ〜〜参ったなぁ;」


ふう、とため息をつく藤崎だったが、鬼塚はポカンとした顔になってる。
同じように向こうにいた笛吹もポカンとしている。


「何なんや・・・ピタッとおさまったわ。あーもうボッスン無事でよかった」

『そうだな。一時はどうなるかと思ったが』



ハハハ、と笑う二人だが今度は藤崎がポカンとしている。
それに対して鬼塚はどうした、と話し掛けた。


「おーい、どうしたんボッスン?アホみたいな顔して」

「・・・・がない」

「はっ?ごめん聞こえへん」

「池が・・・・」



小さな声でブツブツ呟く藤崎に、鬼塚は聞こえん!ハッキリ言うて!と
怒鳴った。




「ーーーー池の底が、まったくねぇんだよ!!さっきまではあったのに!」


大きな声で叫ぶ藤崎に、鬼塚と笛吹はハァ?と間抜けな声を出した。
池の底が無いってどういうことなのだろうか?


「池の底が無いて・・・・ほなどういう事やねん」

「だから!さっきお前らも入った時はちゃんと足着いてただろ!
 それがまったく足着かねえんだよ!」


必死で説得する藤崎に、半信半疑で鬼塚は池の中に足をゆっくり入れた。
すると、真っ青になり慌てて池から足を引っ込める。


「ホンマやーーーー!!どないなっとんねん!!」

「ほらみろ!おかしいだろ、これ。」

『・・・・もしかするとさっきの地震で底が抜けたとか?』



笛吹の問いに三人は顔を見合わせる。
でも流石にそんな馬鹿みたいな話はないだろう、と急に笑い出した。

地震で池の底がポッカリ抜けちゃうことなんてまずありえない。



「おいおい、そんなことねーだろ。池の底は蓋かよ」

「せやなぁ・・・・どないなっとるんだろう?何か怖いわ」


藤崎は何度も、足で底を確認するがやっぱり無い。
とても深ーい大きな穴になっており池というか底無しって感じだ。

そこで、一旦池から出ようと藤崎は岩をよじ登った。





ーーその時だった





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ