短編

□緋の追想
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自分でも、数奇な人生を送っていると思う。
22歳だった私は、家族と共に玉突き事故に巻き込まれて
死んだはずだった。
死んだときのことは覚えていない。
でも、あぁ、もう駄目だ、と目を瞑ったことだけは覚えている。

そして、ふと、気づいたとき、
私は男の子の姿で「弁丸」と呼ばれていた。

池に映る姿を見て、大泣きしたことを覚えている。
なぜなら、私は彼を知っていたから。
正確には、大人になった彼、だけど。

私はどうやら未来の真田幸村として生まれ変わったらしい。
所謂成り代わり、というやつか。

弁丸から、幸村として成長する過程は、なんだか不思議だった。
私の意識と、幸村の意識が混ざり合っているような、
私なのか、幸村なのか、わからない瞬間が多かった。

お館様を見れば、胸が高鳴り、血が滾る。
体が求めるままに団子を平らげる。
独眼竜と出会った時は、体の芯から熱くなり、全身に震えが走った。
怯えではない、興奮、歓喜、言いようのない高揚感。
槍を交えるたびにぞくぞくした。

そして、もう一つ、解らない気持ちがあった。

「佐助」

「なーに?旦那」

さすけ、と呼ぶたびに、高鳴るこの思いはなんなのだろう。
私は「恋」だと感じていた。
けれど、この気持ちは私のものなのか、「幸村」のものなのか、
判別がつかなかった。
そして、それをいいことに、私はずっと気づかない振りをして、ごまかしていた。

「幸村」はいずれ妻を娶り、子をなさなければならない。
それは真田のため、逃れられない運命。
けれど、「幸村」の中の私は、女の私は、たぶん佐助に惹かれている。
「幸村」としての自分と、女としての自分どちらを選ぶこともできなかった。

「破廉恥でござる!!」

それは、佐助への思いと、女を抱けない自分をごまかすための免罪符になった。


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