とある日の朝。
俺はいつものように政宗さまを起こしに、主の部屋へやってきた。
まだ寝ているであろう政宗さまに、襖越しに声をかけようとして、中からもれてきた声にぴたりと動きをとめる。
「…おい、honey.朝からやめろよ…くすぐってぇだろ?」
くすくすと、楽しげな笑みを含んだ政宗さまの声音に、声をかけてもいいものか迷ってとりあえずその場から離れようとした時、俺の気配に気づいた政宗さまから声がかかった。
「…小十郎か?もう起きてるから入ってもいいぞ」
「……………失礼します」
しばし逡巡したあと、ゆっくりと襖を開けるとそこには…
「…こら、くすぐったいから舐めるなって言ってるだろ?」
政宗さまと、猫がいた。
○奥州 猫日記○
○月×日 6:00
政宗さまの話によると、昨夜風呂場から寝室へ行く途中、庭先にこの白い子猫がちょこんと座っていたらしい。
何となく気になって、部屋へと連れ帰ったら、ずいぶんと懐こい猫で、政宗さまはすぐに子猫を気に入られたようだ。
「政宗さま…むやみやたらに動物をひろってはなりませんと…」
「堅いこというなよ、小十郎。俺の城にいたんだから、こいつは元より俺のもんだ。なぁ、honey?」
政宗さまが、愛おしそうに猫の喉を撫でてやると猫は嬉しそうに「にゃあ」と鳴いた。
「…………」
○月×日 7:00
気を取り直して、朝餉を…と思ったら、政宗さまは膝の上に子猫をのせて。
自らの手のひらにほぐした焼き魚をのせて、猫にご飯をやるのに夢中になった。
「見ろよ小十郎!こんなに必死に俺の手を舐めて…よほど腹が減ってたんだな…よしよし、まだあるから食べていいんだぜ?小十郎、もう一匹魚よこせ!」
「……………どうぞ…」
こうして朝餉の焼き魚は、猫の腹の中へと消えていった…。
○月×日 9:00
それからというもの、政宗さまは猫にかかりきりで。
政務が一向にすすまない。
痺れを切らした俺は、政宗さまの前から猫をひょいっと持ち上げて。
「政宗さま…仕事が滞るようでしたら、猫は外へ返しますぞ」
「な!stop、小十郎!わ、わかったからhoneyをはなせっ」
「なりません。その書状の山が片付くまで、猫は私が預かります」
「honey〜っ!!」
びし、と言い放って。
政宗さまの叫びを背に、ぴしゃり、と襖を閉じた。
○月×日 11:00
自室で仕事をしている間、子猫は最初は部屋の中をとことこ歩き回っていたが、今はずいぶんと大人しく座っていた。
仕事が一息ついたところで、ふと子猫がじぃっとこちらを見ているのに気づいて。
「なんだ。喉でも渇いたのか?」
聞くと、何やら「にゃあ」と答えたので、平らな皿に水を入れて差し出せば、すぐにペロペロと水を飲み始めた。
「…慌てるな…悪かったな、もっと早く気づいてやれば良かった」
よしよしと頭を撫でてやれば、ふと背後から凄まじい殺気を感じて振り返る。
「…おい、小十郎…いい度胸じゃねぇか…」
「!?」
「必死で仕事終わらせたってのに…その間に俺のhoneyを口説くとは何事だ!!」
「ま、政宗さま!?」
「小十郎、覚悟っ!!」
「ちょ、お待ち下さい…っ!!」
…なんでこんなことに…。
○月×日 13:00
再び子猫を手に入れた政宗さまは、満足そうに子猫を部屋に連れ帰り、一緒にお昼を食べたりとゆっくりとした時間を過ごしていたようだ。
しばらく子猫にご執心なのは諦めようと思いながら廊下を歩いていると、日当たりのよいところで、政宗さまが昼寝をしていた。
その腕の中で子猫も気持ち良さそうに一緒に寝ていて。
「…まったく…」
苦笑をしながら、起こさないように、1人と1匹にそっと掛布をかけた。
「…よい夢を…」
よく晴れた、あたたかい日の。
奥州での、とある一日である。
○fin○
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