いま愛を語ろう

□マイ ファニー バレンタイン
1ページ/1ページ







もしもし、で始まった会話。

『……なんか言ってよ』

少しの沈黙のあと、不安そうな声が呟く。

「話、なくなった」

随分前から会話が途切れるのに気付いて。

『あと少し』

繰り返すのは聞きあきたそればかり。

「もう」

もう疲れた。

横たわった身体から力が抜けてく。

『智くんっ!』

気配を感じる?

空気が伝わる?

「もう…無理」

悲痛に歪んだ顔が見えるようだ。

「もう、話す事もねえよ」

聞く耳もない。

あまりにも多くの情報と。


智くんがいたら


その一言で、頭も胸も腹もいっぱいだ。

だから。








「ねみーよ」
『智くん! 待って!寝ないでっ』
「な〜…、今何時だと」

俺は昨日の生番組のあと夜通し飲んでて、今朝は早くから仕事だったってば。

「電池切れちまう…」
『智くん、時計見て!』


言われて見上げた、棚の上の時計。

0時1分

「……見た」

微妙に過ぎてるし。

『え? あれ?』
「じゃ、おやすみ」
『ちょっ…』
「気を付けて帰れよ」


待ってっから。


『うん、待ってて』
「おやすみ」
『おやすみ、智くん』


ハッピーバレンタイン

チョコより。

花束より。

愛の言葉より。




「早く戻ってこい、ばーか」




生身の君を。










次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ